♯01
「オラッ!……チッ、囲まれたか……」
魔術都市ファーストの地下に眠る"ダンジョン"。
十代の男女四人で構成される中規模パーティーが、その"ダンジョン"の第三層――――通称"墓地"――――にて、
―――調子に乗ったか。
このパーティーのリーダーを務める男、ザイルは、今更ながら後悔していた。
というのもこのパーティー、全員がつい一月前に冒険者登録を済ませたばかりの幼馴染で、"ダンジョン"の二層迄は楽勝の実力を持っていた。
先輩冒険者に凄い、天才だと持て囃され、天狗になった。
自分達の実力を過信し、三層も余裕だと勘違いを起こし、ろくな情報収集もせずにのこのこ墓地まで降りてきてしまった。
たかが
墓地に来た初戦は良かった。
出てきたのは
ああ、墓地なんてこんなものか。瞬殺できてそう誤解し、仲間と談笑しながら先へ進んだ。次に出たのも
素早さも、力もないが、武器を持っていたことに驚いた。
しかしまぁ、そこはたかが
だが良かったのは、そこまで。
何もかも未熟な俺たちには、攻撃を防ぐので精一杯。
ろくに連携も取れず、退避しようと辺りを見れば、進路は腐屍者(ゾンビ)に、退路は屍鬼(グール)で塞がっている。
魔術師のジーナが、皆の周りに魔術障壁を張った。一時的に、不死者達の攻撃が弾かれる。
でも、これじゃあそう長くは持たないだろう。
死んだな、多分。そう思った俺は、仲間に声をかける。
「ごめんな、皆。こんなとこに連れてきちまって。皆を誘うべきじゃあなかった。俺一人でやるべきだったんだ。冒険者なんてのは。」
「そんなこと無いよ、ザイル君。」
レナが俺の謝罪を否定する。
「そうよ。レナの言う通りよ。貴方が誘わなくたって私はきっと冒険者になってたわ。」
ジーナまで。
「そうそう。俺ら皆、あんな田舎には辟易してたんだ。むしろ、連れ出してくれて感謝してるぜ、相棒。」
ダンも……
「そうか。……皆、優しいな。俺は、こんなにいい仲間を持って幸せだ。」
皆で顔を合わせて笑う。それは、諦めから来る笑いなどではなく、この瞬間を心から楽しんでいる笑いだ。
断続的に続く攻撃で、ついに障壁にヒビが入り始めた。
「そろそろ、終わりか。あーあ、短ェ人生だったなぁ。」
「でも、いい人生だった。だろ?」
俺とダンはそういって笑い合う。こいつとはいつまで経っても親友だな。
「彼氏の一人や二人、作っとくんだったなぁ。」
「もう、ジーナったら、そんなことばかり言ってるから彼氏できないんだよ?」
「何をー?レナだっていないじゃない。」
あはは、と女性陣が笑い合う。しかしジーナは、いくら魔族で潤沢な保有魔力があるとはいえ、連戦で魔力をかなり消費した上で障壁を張っている。
そろそろ、限界だろう。
「いいか皆、ここに一つの中級爆発魔法陣があってだな。こいつを使えば、俺らの周りの奴らくらいは木端微塵にできる。問題点は、俺らの命も持ってかれることだ。どうする?やるか?」
質問しながら魔力を練り、つい先日会得した中級魔術を構築する。
「最期は花火で自爆ってか。派手でいいねぇ、乗った!」
ダンが賛成する。
「はん!このクソ共に喰われるよりはマシね!」
「私も、賛成……かな?」
ジーナにレナも。
そして、俺を中心に輪になった。
爆発の衝撃で、楽に死ねるように。
最後に皆と顔を見合わせて、言う。
「じゃあ皆、来世でまた逢おう。爆発魔法陣、起d――」
「――――あの、お取り込み中悪いんですけど、この不死者(アンデット)、貰っていいですか?」
知らない声が、聞こえた。
◆
さっきまで、まるで全てを諦めたみたいな会話をしていた四人が、ぽかんとした表情で此方を見る。先の問いに対する返答はない。
「…沈黙は肯定、そう見なしますね」
というか、たかが
『その感想は正しくないと報告する。』
僕の耳に通信が入る。僕のパートナーの"ガラハッド”からだ。念話通信の為、彼らに聞かれる心配もない。
『彼らは見た目とその装備から十代後半、その上、
『要するにこの冒険者がへなちょこってことだろ?ガラハッド次はもっと簡潔に頼むよ』
『承知した』
僕は会話しながら、腰のショートソードを抜く。
『PT-00、機体名称セイン、
僕はショートソードの刃全体に火属性の魔力を纏わせる。
『ガラハッド、それ却下で』
『了解。マニュアルモード。』
とりあえず、僕に向かって来る骨屍者(スケルトン)の腕を切り払い、空いた左手でそいつの頸椎を握り締め、へし折る。
そのまま他の骨屍者(スケルトン)目掛けてぶん投げる。五体程が地面に倒れたので、そこに下級火魔術〈灯籠〉を当てる。
これで僕の周辺のモンスターが一瞬居なくなったので、その隙にあの四人の周りに展開される魔術障壁を強化しておく。
「ガラハッド、あの術式試してみようか。」
『了解。特殊直剣術式之一 (仮)、〝心意の伸剣〟起動。』
右手に握るショートソードの、その刃が姿を消す。鍔から柄頭までになったそれを、左腰に、居合のように構える。そして――――――――
ヒュイッ!
と、自分の胸辺りの高さで切り払う。
それを幾度も繰り返す。鍔の先には何もないのに、その延長先のモンスターは動かなくなる。
「こりゃあ凄い。ガラハッド、博士に報告だ。使い勝手も良いし、伸縮限界距離より何よりその速度が素晴らしい。しかしその分懐に入られたら痛いな。…でもまぁ一対多の時には重宝しそうなので、術式はそのまま標準設定にしておく。以上、報告終了。」
『了解』
適当に柄を振り回していると、いつの間にか周囲三六〇度のモンスター達の上下半身は皆泣き別れしていた。
僕はガラハッドに指示を出す。
「ガラハッド、戦況報告開始」
『報告。残存敵性反応〇。討伐数報告、
「ありがとうガラハッド。…あれ?へなちょこ冒険者の皆さんは?」
戦況報告を終えてあの四人組の事を思い出し、振り返ってみると、あの四人がいたところには何もおらず、ただ魔力の残滓が、ついさっきまでそこに人がいたことを示している。
『冒険者ギルドへの転移が為されたと考えられる。』
「そういや何か言ってたね、ガラハッドが。」
まぁいいか。
彼らへの興味を失った僕とガラハッドは踵を返し、第四層へ歩き出した。
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