紫音とサイボーグの戦闘能力
本羽田にある小さな公園でハンヴィーが停まった。
「ここでクアッドを下ろすそうです」
「わかった。先ずは俺達が降りて周囲の安全を確認するから、車から降りないように」
「はい、頼りにしております」
「降りるぞ、お前ら」
僕達はそれぞれ返事をした後に周囲を警戒しつつハンヴィーから降りて他のチームと合流すると、屈強なミノタロス族の男性が話掛けて来た。
「俺達は向こう、お前達のチームは反対側、天野のチームはここを守ってくれ」
「「了解」」
天野さんが僕達の方に顔を向けて指示を出す。
「紫音、リューク。お前達は車の警備を、リトアは俺と一緒に周囲の安全を確認」
「はいっ!」
「了解」
「OK」
僕とリュークさんはハンヴィーの近くに行き、天野さんは僕達から見える範囲で周囲の安全確認をしていく中、僕達もトラックの近くで周囲の安全確認をするが寒気に身体を震わせてしまった。
「どうしたの、シオンくん?」
「トラックの荷台から、冷気が漏れ出しています」
「どれどれ? うわぁっ!? 本当だ!」
リュークさんも驚きながら、トラックから離れた。
「このトラックの中には、クアッド本人の他にサーバーとかを積んでいるの」
何とエルザさんが、トラックを降りて来て僕達のところまでやって来ていた。
「サイボーグと稼働しているサーバーを冷やす為に、こんなに冷たくしているのかい?」
「ええ、このトラックも特注品で数千万ドル単位の値段になるわ」
「す、数千万ドル・・・・・・」
僕は信じられない顔でトラックを見つめているのを、エルザさんは可笑しそうな顔で見つめて来る。
「あのぉ、まだ安全確認が出来ていないので、戻って貰えないでしょうか?」
「フフッ、大丈夫そうだから出て来たの。それに大丈夫よ。私も元軍人でね、銃を扱えるから安心して」
そう言いながら白衣を捲り、腰に差しているGLOCKらしき銃を見せて来る。
いや、そういう問題じゃないんだけどぉ。
そんなやり取りをしていると、天野さん達と周囲を警戒しに行っていた人達が戻って来た。
「ドクター・エルザ。何をしているのですか?」
「クアッドを下ろす準備よ。もう安全でしょ?」
「え、ええ、周囲の安全を確保しましたが、我々が出ていいと言ってからでないと困ります」
「みんな、クアッドを下ろす準備をしてちょうだい!」
リーダーの言葉を無視して自分の仲間に指示を出すエルザさん。
「ハァ〜・・・・・・好きにして下さい。俺達全員は引き続き周囲の警戒をするぞ」
了解。 と返事をした後に、それぞれのチームで周囲の警戒をする。そんな事をしている中、エルザさんはトラックの中へと入って行きサイボーグの起動準備をしている。
「システム、オールグリーン。クアッドを起動させます」
「OK・・・・・・クアッド、アナタに新しい仕事があるわ。この周囲にモンスターがいないか索敵して、いたら倒してちょうだい。いいわね」
エルザさんの話し声が聞こえて来た後に、カプセルに入っていたサイボーグがトラックから降りて来て僕達を見つめて来る。
「ッ!?」
何だろう、このサイボーグに殺気を飛ばされている気がする。
「クアッド、彼らは敵じゃないわ」
「・・・・・・」
サイボーグは僕達から顔を逸らすと、走り出して塀の上から家の屋根へと飛んで屋根伝いに走り出した。
「ス、スゲェ跳躍力」
「身体能力強化でもあそこまでは出来ないわ」
「ホント、アニメの世界で見る動きだな」
「クアッドの筋力は成人男性の約5倍あるから、あれぐらいは余裕で出来るわよ」
自慢気に説明している中、エルザさんはノートパソコンを操作している。
「エルザさん、何でノートパソコンを操作しているんですか?」
「ん、これ? クアッドを追い掛けているドローンを操作しているのよ。ここのボタンを押せば角度と撮影位置を変えられるのよ」
「へぇ〜、スゴイですね」
ノートパソコンに映るサイボーグを見ていると、マンションの屋上でピタリと止まった。
「あれ? マンションの上で止まった」
「自分の脅威になる相手が何処にいるのか索敵しているのね」
「索敵にマンションの上る必要があるんですか?」
普通に歩きながらの方が効率がいいような気がする。。
「索敵モードなら地上でも出来るけど、障害物があるとその向こう側が見れないの。クアッドは広い範囲を索敵出来るように障害物の少ない高い場所にいるのよ」
でも、これだけ住宅が密集していると索敵の意味がないんじゃないかな?
「・・・・・・ん? クアッドが何かを見つけたみたいよ」
先程までキョロキョロしていたサイボーグが一ヶ所を見つめ続けた後に背負っている刀を引き抜くと、マンションから飛び降りてその場所に向かって走り出した。
「高いマンションから落ちても平気なのか?」
「ええ、あのビルぐらいの高さならそんなにダメージはないわ。でも修理が大変だから止めて欲しいのよね」
ハァ〜・・・・・・とため息を吐いている間にドローンの映像にウルフ5体が映り込む。
「クアッドが見つめたのはウルフだったのね」
エリザさんがそう言って間もなく、サイボーグとウルフとの戦いが始まった。先ず先頭にいたウルフを自身の刀で真っ二つに切り裂き、もう1体の首を斬り落とした。
「は、速い!」
僕がそう言っている間も、もう一体の胴体を切り裂いたが1匹のウルフがクアッドの左腕に噛み付いた。
「あっ!?」
「安心しなさい。クアッドはあれぐらいじゃなんともないわ」
そして残り2体の内の腕に噛み付いていない方がクアッドに飛び掛かるが、持っている刀に串刺しにされる。その胴体に突き刺さっている刀を引き抜き、噛み付いているウルフに突き刺して殺した。
「終わったわね」
力なく項垂れるウルフをその場に捨てると、また何処かに向かって走り出した。
「他にも獲物がいるみたいね」
「いやいやいやいや! 倒しに行くのはいいが、あのウルフの処理しなきゃいけないだろ」
「クアッドが倒したモンスターの処理はアナタ方に任せるわ」
「・・・・・・わかった」
リーダーは何処か納得出来ないと言いたそうな顔で返事をした。
「今度の敵は何かしら?」
「マイクで本人に聞いて貰ったらどうなんだ?」
「クアッドは単語しか言えないから、聞いても意味がないのよ」
「そうなの」
リトアさん達がそんなやり取りをしている中、今度はゴブリンが映し出される。
「ゴブリン?」
「ゴブリンみたいね。数は、6体さっきよりも多いわね」
そんな会話している最中、サイボーグはゴブリン達に駆け寄ると刀を横なぎに振るって2体一気に倒すと、離れた位置にいるゴブリンに素早く詰め寄り胴体に刀を突き刺して倒す。
「流れるような剣捌きだな」
天野さんが感心している最中、残り3体の内2体のゴブリンがサイボーグに襲い掛かるが片方が左手に掴まれて、もう片方は縦に真っ二つにされた。
そして残ったゴブリンが自身が持っている弓を構えて矢を放ち、サイボーグの身体を貫く。しかし矢尻が浅く刺さっているだけで平然とした態度をとっているのでダメージがないのが見てわかる。
「矢が刺さっているのに効いてない!」
「クアッドの装甲を舐め過ぎよ」
左手に持っているゴブリンをコンクリートに叩き付けると、矢をつがえているゴブリンに駆け寄り弓ごと袈裟斬り切り倒した。
その様子を見ていたコンクリートに叩き付けられた方のゴブリンは、今更ながら自分には勝てないと悟ったのか、這いつくばって逃げようとするがサイボークに追い付かれて刀で突き刺されてしまった。
「・・・・・・終わったわね」
エリザさんはそう言うと、マイクのスイッチを入れた。
「もういいわクワッド。こっちに戻って来てちょうだい!」
映像に映っているクアッドは頷くと、走り出したのであった。
「クアッドの戦闘はどうだった?」
「もはやバケモノだろ」
「驚いて何も言えないわ」
「ボクも、凄すぎるって思っているよ」
天野達が感想を言っている中、紫音だけが黙ったままノートパソコンを見つめている。
「ねぇシオン。アナタはどう思ったのかしら?」
「え? あ、僕ですか?」
「ええ」
「あのサイボーグが恐ろしいなぁ。って思いました」
画面の中で走る姿を見つめてながら、そう思うのであった。
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