土竜のお店に向かう紫音

188さんは僕に近づくと頭に手を置いて撫でで来た。


「あの、何で僕の頭を撫でているんですか?」


「何となく撫でているだけだ。それよりも付いて来てくれ。ああそうだ! ここは閉鎖区域だから、銃を持って行くのを忘れずにな」


H&K UMP45 を手に持ち、辺りを警戒しつつ188さんの後を追ってパチンコ屋さんを出ると、道路に装甲車と思えるほどボディーを分厚い鉄板とケージ装甲で固められた車が鎮座していた。


「これ、車ですか?」


「何を言ってるんだ。どっからどう見ても車だろう。まぁ RPG-7 を撃たれてもいいように、バンを改造されているがな」


もはや車と呼べる乗り物じゃない気がする。


「乗り口は後ろからだ」


「ですよねぇ」


横と前は鉄板とケージ装甲で固めているから、どう見ても横から乗れるわけがないよねぇ。


そう思っていると、188さんは後ろのドアを開き入って行く。


「お前達も乗った乗った!」


「はぁ〜い!」


「は、はい」


恐る恐る中に入って行くと、見た目と同じで乗用車とは思えない内装をしていた。


「シートが横に並んでる」


そう、まるで電車や装甲車のようにシートが並んでいるのだ。しかもシートベルトまで用意してある。


「こうした方が人数が乗れるし、荷物も入れられるからな」


「でもこの車、燃費が悪いですよねぇ〜」


「こんだけ防弾装甲を取り付けているんだから仕方のない事だ。出発するぞ、座っていろよ!」


188さんはそう言うと車を発進させた。


「あれ? 普通の車と違うエンジン音がする」


「気付いたか紫音くん。この車には10tトラック用のエンジンを積んでいるのさ」


「10tトラック用っ!? 10tトラック用のエンジンはデカイ筈ですよ! どうやって付けたんですか?」


「ああ、無理矢理付けたんだ。ほら、前が出っ張っているのが何よりの証拠だ」


確かに前が出っ張っていた。


「これ、道路交通法違反になりませんか?」


「普通ならなるな。でもここは危険区域だから法律気にしていたら生きていけねぇよ」


「そ、そうですかぁ」


僕はそれ以上深く考えるのを止めた。


「そういえば、土竜さん達が僕に探して欲しい人って仲間ですか? それとも別人ですか?」


「ん〜・・・・・・仲間もそうだが、1番に探して欲しいのは居場所なんだよなぁ」


「えっ!? 居場所ですか?」


それなら、僕じゃなく地図を見て確認すればいいんじゃないかな?


「大園くんのリーダーから聞いていると思うけど、あっし達のメンバーの1人が行方がわからなくなっているんだぁ〜」


「行方がですか?」


つまりその人を探して欲しいって事になるよね。でもそれじゃあ居場所の意味がわからない。


「最近知った事実なんですけどぉ、そいつが武器と金の一部を横領していたのがわかったんですよぉ〜」


「横領?」


「ええ、あっし達も最近武器の量とお金の収益がおかしいなぁ。と思っていて、確認してみたら横領されているに気付いたんですよぉ〜。

その張本人も見つけ出したので、捕まえようとしたんですけど逃げられてしまいましたぁ〜!」


多分、横領に気付いたと覚って逃げたんだろうね。


「それでだ。嗅覚のいい紫音くんに頼んで見つけ出して貰おうと考えたんだ」


「そうなんですか。でも見つけ出すにしてもその人の臭いが・・・・・・」


「以前着ていた服があるから大丈夫。それにヤツの居場所を絞り込んでいるからな。そこを重点的に探せば見つかる筈だ」


あ、用意がいいですね。


「さて、そろそろ店に着くぞ。お〜い、俺だ! 開けてくれっ!!」


フロントガラスの方を向くと、前にも来た梅屋敷駅へと入って行く。


「ここがスラムの中」


梅屋敷に作られたスラムの中は、子供が活気にあふれていた。


「あれぇ? 大園くんってスラムの中は初めてなのかなぁ〜?」


「え? あ、はい。以前は入り口までしか来てませんでしたから」


今はもう亡くなった3人の場所を教えてもらう為に、ここの前までやって来ただけでスラムの中には入っていない。


「念の為に説明すると、ここが1〜2位を争うほど安全なスラムなんだぁ〜」


「そうなんですか?」


確かに、ここのスラムにいる人の身なりはちゃんとしていて、生活が充実しているのがわかる。


「そうだなぁ〜、墨田区辺りになると店も構えられないぐらい危ないからな」


「どうしてですか?」


「何かわからないが、軍隊擬きとヤクザの連中が戦争をしているんだ」


「せ、戦争!?」


僕が驚いていると、188さんが車を停めてから僕の方に振り返って説明を始める。


「公式には発表されてはないが、その2つの勢力が墨田区で小競り合いをしているんだ。だから毎日飽きもせずにパンパン銃を撃ち合っているんだよ」


「こっちとしては有り難い一面もあるのですが、いかんせん両方共勧誘が酷くて疲れるんですよねぇ〜」


「両方共脳筋バカしかいないからな。スマートな交渉が出来ないんだ。おっと、2人共降りる準備をしておけよ」


「「はい」」


そう返事をしてから後ろドアを開き外へと出て188さんが向いている方向に顔を向けると、そこには複合施設らしき建物が建っていた。


「ようこそ、我らの土竜のお店へ。ささ、中へどうぞお客様」


「あの188さん。僕は仕事で来たんですけどぉ・・・・・・」


「まぁ細かい事は気にせずに入ってくれや」


188さんと225さんの2人は建物の中へと入って行くので、慌てて入って行く。


「・・・・・・あれ?」


お店の中に入ると、和気藹々わきあいあいとショッピングを楽しんでいる人達がいた。


何で食材が置いてあるんだろう? しかも近所のスーパーよりも値段が安い。


キョロキョロと見渡していると、188さんに肩を叩かれた。


「1階は食品コーナー。俺達が用があるのは2階が日用雑貨&ガンショップの方だ。2階に上がるぞ」


「あ、はい」


エスカレーターに乗って2階にたどり着くと開けた場所に出た。


「中央は休憩場。左は雑貨で右がガンショップだ。あ、そうだ! 地下1階では車を売っているんだ」


「車も売っているんですか!?」


「ああ、ちゃんと保険もあるからぶつけても大丈夫だぞ。まぁ、暇があればそっちも案内してやるよ」


そう言いながらガンショップの方へと入って行くと、カウンターの向こうから年老いたお婆が見つめて来た。


「お帰りぃ〜。思っていたより早かったねぇ〜」


「ああ、婆さん。変わりはなかったか?」


「住人が弾を1箱買っていっただけだよ」


「そうか。店番サンキュー」


188さんはそう言うとお婆さんに封筒を渡し、封筒を渡されたお婆さんの方は中身を確認する。


「また何時でも頼みなぁ」


お婆さんは封筒を懐に入れてお店を出て行ってしまった。


「あの、あの人は?」


「ただの日雇いのアルバイトだから気にするな」


あのお婆さんメンバーじゃないんだ。


「それよりも紫音くん。どうだいウチの店は?」


「どうだいって・・・・・・」


AK系統のアサルトライフル中心に、AR15やMP5。それに各種のリボルバー からオートマチックピストルまで揃っている上にガラスケースの中に手榴弾まで置いてあった。


「あの・・・・・・隅っこにあるのって、もしかして?」


「ああ、PKPとMG3だ。羽田空港にはベルト給弾式のライトマシンガンとかSAWは置いてなかったな。コピー品じゃなく純正品だから安心して使えるぞ」


「これをどっから仕入れているんですか?」


「企業秘密だ」


確かに・・・・・・こういった物の仕入れ先を教えられないよね。


「それよりも紫音くんのリボルバー を出してくれ」


「え、リボルバー をですか?」


「個人的に気になるところがあるからなぁ。大丈夫、ブン取って売ろうだなんてしねぇから」


そう言って手を差し出して来るので銃本体から弾を抜いて188さんに手渡したら、隅々まで見てからカラ撃ちをした。


「・・・・・・なるほど。紫音くん、これを俺に預けてくれないか?」


「えっ!? それがないと困るのですが」


「ああ、そうだなぁ。代わりにこれを使ってくれや」


そう言って取り出したのは、 スタームルガー レッドホーク(44マグナム使用) を渡して来た。


「スタームルガー レッドホーク 。大口径の弾を使う銃でシングルアクションのブラックホークとは違い、そのレッドホークはダブルアクションだからトリガーを引くだけでいい。

それとスタームルガー社の特徴である、値段の安さが売りだったんだがぁ・・・・・・」


「何故か3丁しか売れないんですよねぇ〜」


「454カスールの方を買えばよかったかもな」


2人はそう言うと、ため息を吐いた。


「まぁ、それが傷付いても壊れても文句を言わない。ほらこれ、44マグナム弾だ」


スピードローダーに付いている44マグナムをガラスケースの上に置いた。


「じゃあ僕の357マグナムを預かって貰っていいですか?」


「ああ、いいよ」


了承を得たので357マグナム弾をガラスケースの上に置き、44マグナム弾とレッドホークを受け取る。


「さて、紫音くんの仕事の話だ。隣にいる225と共に裏切り者の倉庫を見つけ出して貰う。あわよくばヤツを捕らえられればなおよし」


「うんうん」


225さんは何時の間にか FN FNC (5.56×45mm弾使用) を持っていた。


「多分裏切り者が抵抗する可能性があるから、常に身構えていた方がいいですよぉ〜」


「えっ!?」


「えっ!? じゃないですよぉ! 向こうだって武器を持っているのですから、抵抗するに決まっているでしょぉ!」


「うっ!?」


そう言われたら、その通りかもしれない。


「それじゃあ話が済んだんだ。ちゃっちゃと行って来い!」


んな無茶苦茶な・・・・・・。


「ホラ、さっさと行きますよぉ〜!」


「ええ〜っ!?」


そう文句を言う僕の手を引っ張りって外へと連れ出されたのだった。

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