綾崎さんのお兄さん②

 ジャスミンの言葉に部屋の主は動揺したようだった。ガタンっと音がして、すぐにドアが開いた。綾崎さんがいくら説得しても出てこなかったのにジャスミンの一言で出てくるなんて驚きだ。


「それは本当なのか。」


 部屋から出てきた男は確かに伴坂と一緒に行動していた男と同一人物だった。金髪でイケメンな綾崎さんのお兄さんは、部屋の外にいた私とジャスミン、そして、自分の妹に目を向けた。


「遠坂さんと連絡が取りたいんだ。こんなことで俺の楽しみが奪われるなんて最低だ。俺はまだ遊び足りない。」


「その遠坂と一体何をしていたのか詳しく話してくれたら、合わせてあげてもいいですよ。」


 ジャスミンが話の糸口をつかんだというばかりに強引に話を進めていく。遠坂が今どこにいるのか、何をしているのかわからないのにそんな大胆な嘘をついていいものだろうか。


「その話を信じてもいいんだな。もし嘘だったなら、後悔することになるぞ。何せ、俺の能力は……。」


「お兄ちゃん、能力なんて中二病全開の言葉はもうやめてよ。普通の人間に超能力なんて使えるわけがないんだよ。私の友達の前でそんな恥ずかしいことは言わないでよ。」


「麗菜、お前ってやつは……。」


「とりあえず、立ち話も疲れますから、下のリビングで話し合いませんか。それから、もしよろしければ、綾崎さんはいったん、席を外してもらえないでしょうか。」


 このまま立ち話は疲れるし、どうやら兄妹の仲はあまりよろしくないらしい。それもそのはずだ。不良の兄と優秀な妹で仲がいいはずがない。綾崎さんに席を外してもらいたいのは、もちろん、お兄さんの能力が具体的にどんな力なのか聞き出すためだ。


 

 伴坂が彼の能力を少し説明してくれたのだが、生気を吸うとは具体的にどのようにするのか。能力の発動方法はどうなのかなど、わからないことも多い。能力については本人に直接聞いた方がいいだろう。話を聞くにしても、綾崎さんは能力者について知らないようなので、彼女がいると、能力者について最初から説明する必要が出てきて大変なので、席を外してもらうことにした。


「そんなわけにはいかない。もし、二人と一緒にして、万が一のことがあったら私は……。」


 当たり前のことだが、綾崎さんは反論してきた。自分の知り合いに能力は使いたくはないが、やむを得ないので能力を使うことにしよう。こんな時に私の能力は非常に役に立つ。



「綾崎さん、あなたはこれから私たち3人とは別行動をしてください。時間は、そう、1時間くらい、自分の部屋で大学の宿題でもしていてください。」


 綾崎さんに意識を集中する。綾崎さんと目があうなり、能力を発動する。私と綾崎さんの周りが金色に光りだす。久しぶりに能力を使った気がする。きちんと綾崎さんには効果があったようだ。私の言霊を受けた綾崎さんは目がうつろになり、指示に従った。


「わかりました。」


一言つぶやくと、素直に自分の部屋に向かっていく。ドアを開けて、そのまま中に入ってしまった。


 

 これで一時間は時間がある。一時間でお兄さんからできる限りの情報を聞き出さなければならない。お兄さんは私の力に驚いて、固まっていた。


「ある意味、これは脅迫みたいなものよね。正直に話さないと何をされるかわからないという脅し。」


 ぼそっとジャスミンが何かをつぶやいていた。


「さあさあ、邪魔者はいなくなったので、腹を割ってお話し合いをしましょうか。」


「お前も能力者なのか。いったい俺に何の用事があるんだ。俺だって能力差だ。お前なんてこ、怖くないからな。」


 

 私の能力を目の当たりにして、すでに恐怖心を抱いている綾崎さんのお兄さんである。声が震えている。 


「とって食べたりはしませんから、そんなに怖がらないでください。本当にあなたと話がしたいだけです。話してくれたら、遠坂という人物の居場所を教えますから。」


 私が優しく問いかけると、少し安心したのだろうか。無言で頷いて、自ら二階から一階のリビングに降りていった。


「……。」


 その場には私とジャスミンが取り残された。なんとも微妙な空気が流れていたので、手をたたいて、気合を入れる。



「さあ、話を聞きに行きましょうか。」


 私とジャスミンは彼の後を追って、階段を下りた。





「まず、俺の名前は綾崎玲音。妹は麗菜で、あんたらと同じ大学に通っている。麗菜から今日、友達を連れてくると聞いていたが、まさか、こんなにやばそうなやつとは知らなかった。まあ、それは今はいいか。俺の話を聞きたいんだろう。話してやるから、あとで遠坂の居場所を絶対吐くんだぞ。」


「わかっています。」


 綾崎さんのお兄さん、綾崎玲音の話が始まった。


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