第3話 オタクの備え

オタクの備え


ある日、ヨメが非常事態用に用意していたザックをチェックしていた。

周囲にはザックから出したであろう物が置かれていた。

「ありゃ、どうしたの?そんなところに突っ立って」

「そういうキミこそ、ザックの中身を出してどうしたんの?」

質問を質問で返してしまったが彼女のやろうとしていたことはおおよそ想像は付いた。

彼女が引っ張り出した非常用ザックに入っていたのは食品以外の“災害時”に

対応する為の道具が入っているものだ。

実際、彼女の周りに置かれているのは懐中電灯2個と充電式電池と充電器に小型ラジオ。

他にもバンドエイドなどの薬品をまとめた小さな薬箱があった。

「ここ最近色々と災害による被害が多いからさ。暇な時にチェックしとこうと思ってね」

彼女の言葉通り、ここ最近規模の多い災害が起きている。

ウチの区画は幸いこれといった被害はなかったものの“いつ”起きるかわからない“災害”の備えは

無駄になるということは少ないのもまた事実だ。


それから二人でしばらく機材面のチェックを行い、特に問題ないことがわかった。

「そういえば食材面は大丈夫?」

「うん、この前新しい缶詰や保存期間の長いのを買ってきたから問題はないよ」

と言ってヨメはキッチンへと向かい、保存食品を幾つか持ってきた。

サンマの蒲焼や乾パンなどのポピュラーでオーソドックスな物を初め、チョコレートの様なお菓子類も

中にチョコが入ったものが中心となっていた。

「そういえばどうしてチョコはパッ〇ん〇ょみたいなタイプなんだい?」

「やっぱ夏場だとチョコは溶けたちゃうじゃん。チョコが中に入っているタイプならベタつかないし、手が汚れることも少なるからね」

なるほど、と思わず相槌を打っていた。


あらかたチェックを終えた所でボクはふと思ったことを口に出してしまう。

「やっぱ娯楽品は必要だよね」

ダンナの言葉にヨメはきょとんとした表情を浮かべていた。

疑問というよりも驚きといた感じだ。

「そんな顔して、何かおかしなこと言ったかな?」

「むしろ関心したって感じかな。大体娯楽品って無視っていうか必要ないって思われてること多いからさ。キミも同意見だと思って」

心外な、と思いながらもボクはヨメにボクの考えを述べた。

「そりゃあ避難所に持っていける娯楽品なんてたかが知れてるけどもそれでもストレスは溜ってくるじゃないか。

それを発散するにしても娯楽品は必要だとボクは思ってるよ。無論周囲のことを考えるのは当たり前だけど」

ダンナの言葉に確かにねぇ、と納得した声を漏らしながらヨメも言葉を紡いだ。

「できる時間は限られてるけどもゲーム機があれば子供達も釘付けになるかもね。最近のゲーム機でも小型のディスプレイになったりするのもあるし」

「下手に相手に失礼だと思う前に自分は必要かもしれないって考えるのも大事だと思うね。その後は追々考えていけばいい」

「そうね、気持ちがネガティブになりやすい環境だからこそこういう娯楽品は必要よね。特に子供たちにとっては」

そう言った後、不意にヨメが顔を背けた。

どうしたんろと思い、ボクは言葉を掛けるとやや赤面しながらヨメがこっちにゆっくりと顔を向ける。

「…うん、ちょっと急に子供がいれば大変かもしれないけどもっと楽しくなるんじゃないかって思っちゃって…」


その言葉にしばし呆然とした後、ダンナも若干気恥ずかしい気分になって二人ともしばらく黙り込んでしまった。

どんな大変な時でもやっぱお互いに大切なことを思えるのは大事なことかもしれないと思ったのだが

後日、知人にこの話をしたら「リア充爆発しろ」と怨嗟を込めて唸られてしまった。

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