第2章
第21話
5月15日(火)、松田凛はこの世界から消えた。
消えたと言っても彼女は透明人間になったわけではない。
あらゆる人間の記憶や記録から消えたという意味で、彼女は誰の目にも1人の少女として見えている。
ただ俺だけが彼女を松田凛として認識できるらしい。
5月15日の調査だけで、このような考えに至った根拠をいくつかあげておこう。
・松田凛のスマホに入っていた連絡先の欄は真っ白になり、履歴の欄にも何も残っていなかった。
・松田凛のスマホのラインには俺しか残っていなかった。彼女曰く、外国の友達もいたことから、この現象は日本だけではなく世界にも及んでいると判断した。
・俺のスマホから凛の友達に電話をかけ、本人が直接話してみたがどんなに説明しても「そんな人は知らない」と電話を切られた。
・松田凛の弟にあたる松田博隆に電話をしてみたが、「僕には姉弟はいない」と言われ、電話を切られた。
・市役所に行き、住民票をもらおうとしたが、その住民票自体が存在しないと言われた。
・松田凛がネットで書いていた小説は、彼女のアカウントごとすべて消えていた。
俺はただひたすらに困惑していた。
凛は不思議なことに恐怖や寂しさを感じないと言っている。
きっと彼女もこの意味のわからない状況に混乱しているのだろう。
恐怖や寂しさとは現実がはっきりしてくると、じわじわとやってくるものだと誰かが言っていたのを思い出した。
凛は学校中帰りのようで、いつものゴスロリの服ではなく、電車の中で見かける青い制服姿だった。
あたりは暗くなり、だんだんと冷え込んできたせいか、少し寒そうだ。
俺は自分制服の上着を脱ぎ、そっと凛の小さな背中にかぶせる。
彼女は黙って上着を引き寄せ、少し嬉しそうな顔でこっちを見てくる。
めっちゃ可愛いやんとなぜか関西弁が出てしまうくらい感動したが、そのか弱そうな彼女を見てあることが頭によぎった。
「そういえば、凛さん。今日泊まるとこどうするの?」
「? そりゃ、まぁ、友達の家に泊めさせてもらうわよ」
「……」
わざとだろうか。それとも本当に忘れているのだろうか。
俺はどう返せばいいかわからず黙り込む。
「……!! そうだった! もう誰も私を覚えていないのか!」
「…で、どうするの?」
「決まっているじゃない…」
彼女は俺の視線から避ける様に目を逸らし、少し遠慮気味にこう言った。
「あんたの家に……泊まるしかないじゃない…」
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