石灰滓
伊刈は小港組への石灰滓の出荷を確認するため山口鉱産湾岸工場に通告して検査を実施した。東京湾を埋め立てた広大な工業地帯の一角に大型のバルク船が接岸できる岸壁を備えた山口鉱産湾岸工場があった。
「石灰石の滓なら確かに売っております」工場長の土岐が場内を案内しながら言った。
敷地の一番隅の目立たない空き地を利用して石灰石の不良品の捨て場が設けられていた。真っ白な捨て場の真ん中の水溜りから湯気が立ち上る様子は小さな火山の噴火口のようにも見えた。発熱は生石灰の滓と水の反応によるものだった。これはそれなりに激しい反応で火災や爆発事故を起こすこともあった。
「雨水がかかっても大丈夫なんですか」夏川が聞いた。
「生石灰はわずかですから。石灰石や消石灰なら大丈夫ですよ」土岐が答えた。
「これを安心工研に売ってるんですか」伊刈が聞いた。
「これは売り物にはなりません。ここを清掃してもらって清掃代と石灰滓の売却代を相殺している形でして」
「現場はわかりました。今おっしゃった取引のわかる書類を拝見できますか」
「いいですよ」
事務棟に戻り会議室で書類を点検することにした。土岐工場長はすぐに契約書類を揃えて持ってきた。
「最近ですと十五台出してますね」
「契約先は安心工研だけですか」
「今はそうです」
「過去に小港組との契約はありませんか」
「そことの契約はございません」
「価格は一トン五百円ですね」
「はい」
「ダンプ一台十トンなら五千円もらっているわけですね」
「そうなりますね」
「運賃は安心工研の負担ですか?」
「うちが負担しています」
「契約書には運賃の記載がありませんね」
「それは別契約です」
「拝見できますか」
提出された契約書を見ると運搬費と場内清掃費の名目で一トン二千円が安心工研に支払われていた。
「五百円と二千円を相殺されているということはトータルすると処分費を千五百円払っているということですね。これでは有価物とは言えないですよ」
「微々たる額ですよ。ダンプ一台一万五千円です。産廃として処分したらその十倍以上かかります」
「それでも運搬費別立ての偽装にあたるかもしれませんよ」
「ではどうすればいいでしょうか」伊刈の指摘に土岐工場長はにわかに慌てだした。
「ほんとに有効利用しているのなら偽装処分ということではないと思いますけど、とりあえずはっきりするまで安心工研への出荷は中止した方がいいかもしれませんね」
「本社とも相談して対応を検討させていただきます」
「こちらの管轄は県庁ですから対応は県庁と相談してください」
「わかりました」
伊刈は安心工研への石灰滓の出荷を確認できたことに満足して山口鉱産を後にした。
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