第27話 国王の演説
シュイン帝国南区。
城にもっとも近い大きな広場、そこに多くの国民が詰めかけていた。
今日は国王直々に国民に向け、大切な発表があると前触れがでていたからだ。
南区の国民は皆、なんの話か、それ以前に国王を見るチャンスと広場は大勢の国民で埋め尽くされていた。
警備を担当しているのが第一師団だと見てわかった為、誰もが国王本人がこれから何かを発表するのだと、期待と不安を交錯させていた。
そしてついに時間になり、国王が演説台の上に現れる。
広場が大きな歓声につつまれた。
国王は自国の国民を隅から隅まで見渡すような仕草をとった後、周りが静かになるタイミングで語り始めた。
「親愛なる国民諸君、本日はよく集まってくれた。」
国王の声は風の魔法で拡大され、広場よりもずっと広い範囲で声が届けられる。
「皆も知っているように、第四師団長、トルマ・フィードベルトが亡くなってから今日で丸2年となる。あれから第四師団長不在のままとなっており、現在ほとんど師団としての機能を果たしていない。」
第四師団は団長の空席まま、失った兵力も特に補充されず、残った兵と生き残った当時の側近達が代行として軍を指揮するという体制を取っていた。だが残念ながら南区の治安は悪化し、更には魔族達に進行され、もはや第四師団長が散った、エスリーの砦さえも落とされていた。
「長たる第四師団長不在ということもあり、諸君等を不安にさせてしまったことをまずはお詫びしよう。」
治安悪化は治安を維持する第四師団の兵力が足りないというわけではなく、質そのものが低下したためだと言われている。南区だけなら今でも十分な治安を維持できる人数がいるはずだった。
「しかし、その空席もまもなく埋まる!」
王の言葉に国民がざわめく。
誰が第四師団長になるのか?
順当にいけば今いる第四師団の誰かである。
だがそれではこれまでと何が変わるのか?
「まずは紹介しよう。」
その言葉とともに、王が立つ演説台の下に4人の人影が現れた。
全員が顔に仮面をつけており、素顔はわからない。さらにうち2人はフード付きのローブをかぶっている。
「今、諸君らの前にいる4人のうちの誰かが、次の第四師団長となる。」
この王の言葉には、国民だけではなく、広場を警備していた今の第四師団の面々もざわついた。
王が順に名前のみを紹介していく。
国民は紹介される順に顔を向ける。
マウ・ラレイア
身体が大きく、身長も2メートル近くあるように見える。うでも太く丸太のような大男。
大きな斧を背中にしょっていた。
アフ・シア
小柄で手にロッドをもっていることから魔道士とおもわれる。
どう見ても仮面で遊ぶ子供にしか見えない。
レイ・シンサ
成人男性よりは少し低い身長で、細身。腰に剣をさげている。
フードをかぶっている人物だ。
サイ・ジャッカ
平均的な成人男性と同じ背格好。槍を担いでおり、フードをかぶっている。
全員が顔を隠しており、また誰の名前もこれまで聞いたことがない。そもそも仮面をつけている時点で異様な四人だった。
広場に集まった者が国王の言葉を不信に感じるのは当然だ。
ざわつく国民に王が続ける。
「訳あって、見た目はこのように仮面をつけておるが、4人ともその能力に問題はない。明日より第四師団に配属とするため、皆その働きを目に焼き付けてほしい。今日、この瞬間より、第四師団は生まれ変わる。」
紹介された4人が無言で腰を折り、お辞儀をした。
「彼らは今しばらく第四師団ではあるが指揮系統は私の直轄とし、第四師団と共に南区の治安維持に尽力するものとする。」
これで、王からの発言は終わった。
第四師団所属で王直轄ということは師団長と同じ立ち位置ということになる。
広場での喧騒は消えることなく、新しく加わるという4人を不安と期待の入り混じった目で見ていた。
「陛下!どういうことなのですか!?」
演説を終えた国王の元に駆け寄ったのは2人。
一人は現在の第四師団のトップに君臨する人物、第四師団副官のカム・テイル。
そしてもう1人はフィードベルト家の当主、つまりトルマ・フィードベルトの奥方にあたる、ルアイラル・フィードベルトであった。
「どうとは?」
「あの仮面をつけた4人の誰かが師団長になるという話です!」
「うちの娘に婿入りさせるということですか?そのような話、聞いておりません!」
2人の剣幕に国王は少しもたじろくことはなく、冷静にまずはカムの方を見つめ返した。
「うむ。納得いかんかね?」
「もちろんです!わ、私がどうというわけではなく、他の師団の者達も納得しないでしょう!軍の士気をさげることになりかねません!第四師団の乱れは南区の治安悪化につながります!」
王に睨まれ、カムは自分ではなく軍や、治安のためにという意見をあげた。
「すでに第四師団の荒れようは有名ではないか?これ以上下がる士気があるのか?治安も同じだ。そろそろ他師団を介入させねばならないところまで来ておる。それともお主が、第四師団長になって責任ある行動をとってくれるのか?」
「そ、それは…。」
カムが目をそらす。
隣にいるルアイラルの目も鋭くカムを睨んでいる。
「そういうわけではありませんが、何も知らない者をいきなりトップにつけるというのは。」
「すぐではない。期間にして最短でも3ヶ月は先の話になる。」
「で、ですがいきなり…。なにか問題を起こせば第四師団の責任となるのでしょう!?」
「ワシの直轄だ。奴等が何かした場合、責任はワシにあるが?」
「…わ、わかりました。」
カムが王に頭を下げ、一歩後ろに下がった。
(出世より保身しか考えない小物…トルマやウキエの評価通りか。)
カムの評価が報告通りであることに溜息を付きながら、もう1人、ルアイラルの方に目をやる。
こちらは旧知の仲だが今は国王と貴族という立場、国王としての言葉を伝える必要がある。
「まず、あの4人については、トルマとワシとで選定した人選となる。そして第四師団への組み込みも予定通り。第四師団長にするというところまでな。」
「では、やはり娘の?」
「いや、元々から婿入りではなくトルマの養子とするつもりであったが、不測の事態が起こったため、今ではフィードベルト家に関わらせるつもりはない。」
「では、名誉ある四大家を師団長の任から外すと?」
ルアイラルの目が釣り上がる。
4大家とは第一師団から第四師団までの師団長が属する貴族家のことだ。
建国当初から続く由緒正しき血筋と言われており、代々の師団長はその貴族家からしか排出されていない。
「そういうことになる。そもそも四大家の血族というならお主の娘の子であればともかく、婿であれば血筋はつながっておらんではないか。それとも娘は師団長の器か?分家にも男児はいなかったはずだが?」
「それは…。」
ルアイラルが言葉を濁す。
血筋で言ってしまえば確かに師団長を婿にすれば影響力はフィードベルト家が持てるが、実際に師団長にはその家の血は混じっていない。
そして娘は成人を迎えたばかりでほとんど軍務経験がないときている。
「しかし、過去から代々…。」
「継ぐものがおらぬのだ。途絶えるのはしかたなかろう。」
国王の言葉にルアイラルが唇を噛む。
「他には?」
「…いえ。」
「フィードベルト家には土地を与える予定でおる。これからは領地貴族としてこの国を支えてほしい。」
ルアイラルが下がり、王は2人の間を抜け、馬車の方へ歩いていく。
途中、ウキエを呼びつけ、何か指示を与えていた。
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