傭兵の生活

 今日も僕はミアやララと仕事をこなす。

 最近では傭兵団の他の人たちと一緒に大きな仕事にもついている。採集の仕事よりずっと割りがいい魔物や盗賊団の討伐だ。


 こういった討伐任務は大人数ですることが多く、僕らのパーティーより多人数のパーティーが複数集まって仕事をする。

その中でも僕らのパーティーは援護とか、後詰みたいな、比較的安全な役割になることが多かった。

 そういう配置だと1日全く戦うことがなく終わることもある。

 賃金は活躍によって分配されるので、そういう場合は安いけど、それでも採集の仕事ぐらいはあった。


 こういう仕事にもだいぶ慣れてきた。

後方支援とはいえ、魔物や盗賊が襲いかかってくることもある。躊躇してたら自分や仲間が怪我をする。


 はじめの頃は吐き気や幻覚に悩んだこともあったけど、今はそれもない。

 カシムさんが慣れるといったのはそういうことだったんだろう。


 そう、僕はもう人を殺めている。


 もちろん、相手は盗賊や犯罪者だ。


 はじめて殺めた相手は盗賊の人で、向こうから剣を構えて向かってきたので僕は身を守っただけ。

 けれど、魔法で殺めたのに、人を殺したという事実と感触はしばらく僕に付きまとった。


 思い出す相手の顔。

 手についた真っ赤な血。

 そしてむせ返るような返り血の臭い。


 初めての感覚に悩んでいる僕を、ミアは明るく、ララは心配そうに気遣ってくれた。

 そしてカシムさんが言った。続けていれば時間が解決すると。それが慣れだと。

 その時はとてもそうは思えなかった。

 人を殺めれば殺めるほど、夢見は悪くなり、血の臭いは濃くなる。

 その頃は少し後悔していた。

 やはり自分には無理だったのかと。

 でも、もう汚した手は戻らない。


 それからどれぐらいの日がたっただろう。

 今の僕は特に何も後悔していない。


 はじめて殺めた人の顔はもう覚えていないし、血の臭いもそれほど気にならなくなった。


 これが慣れというものなのかはわからないが、気にならなくなると、同じ傭兵団の仲間のために。という気持ちが強くなった。

 殺らなければ仲間が殺られる。

 迷いなんてあるわけがない。


 そして今日もまた、僕は仕事で人を殺めた。

 返り血も最近は浴びなくなったし、ふさぎこむこともなくなった。


 今日は盗賊の残党狩り。


 僕等のパーティは前衛のサポートをするのが仕事だった。

 最近少しずつ増えているポジションだ。


 僕とララは魔法で援護、僕は主に防御系の魔法で、ララは回復をサポートする。

 ミアは奇襲に備えて護衛。基本的にやることがなくていつも暇そうだった。





 仕事が早く終わった時は真っ直ぐ園に帰り、イレーゼやローラ姉さんと一緒に幼年組の世話をする。


 そして夜、寝静まった後。

 僕は夜の裏庭に抜け出し、フィーに魔法を教わる。


 最近は防御系の魔法を教えてもらうことが多くなった。

 本当にフィーはなんでも知ってる。


 例えば突風を利用して多くの弓を弾く魔法や、それの応用で突風を起こして相手を怯ませる魔法など、集団戦に向いた魔法だ。今のところ使い道は無さそうだけど、いざという時のために覚えておいて損はないはずだ。


 魔力の方はそれほど増えてないけど、使える魔法の種類はここ数ヶ月でかなり増えてきた。

 けれど、魔法を教われば教わるほど、フィーが教えてくれる魔法の恐ろしさがわかってくる。


 僕が使う魔法はたぶん、どこの教本にも載っていない。

 少なくとも人族がもっている知識じゃないはずだ。

 魔法の呪文や名称に統一性がないのも、たぶんフィーが知っている魔法で最もいいものを僕に教えてくれているからだ。


 風の魔法は探索や魔法防御が中心のはず。

 ララの魔法がいい例だ。


 でも僕の魔法は戦いの支援だけでなく、攻撃に特化している。

 そのおかげで今の仕事ができているんだけど。


 明け方になる前に、部屋に戻り眠りにつく。

 最近すっかり寝る時間が短くなった。

 けれど不思議と疲れは感じていない。


 寝る子は育つというけど、僕の場合、この生活をしていると身長は伸びなかったりするんだろうか。

 それは困る...。小さいのを少し気にしてるから。


 明日にでも園長に聞いてみよう。

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