女神様、ダンジョンはお好きですか?
@Yupafa
Chapter.1 マグメル編 マグメルの洞窟経営
ダンジョンで起きた奇跡
悪戯な創造神が気まぐれで創りあげた箱庭の世界『ガーデニア』。
ガーデニアのはるか東の辺境──
そこにはアゼリア巨大森林と呼ばれる、五十メートルをゆうに超える巨木ばかりが生い茂る広大な地域がある。
アゼリア巨大森林の中には小高い丘陵地がいくつもあるのだが、そのうちの一つに最近とあるダンジョンが創られた。
それはダンジョンと言っても、お世辞にも大きいとは言えない簡素な作りの洞窟。全長百メートルほど、部屋は大小合わせて三つあるだけ。剥き出しの岩肌、地面、暗闇。
そんな何の取り柄もないダンジョンをこつこつと営む一人の人間の青年がいた。
▫️
マグメルは幻想的な空間を見て嬉しそうな表情を浮かべていた。
エメラルドグリーンの光をほのかに放つ魔素が洞窟の大部屋の中をゆらゆらと漂い、美しい光の軌跡を描き出している。部屋の中央部に浮かぶクリスタルがその光を屈折させ、洞窟の壁面に様々な色のオーロラを映し出していた。
マグメルは自分のこれまでの努力を噛みしめるようにゆっくりとクリスタルに歩み寄る。
クリスタルにそっと触れたマグメルは目を瞑り、一呼吸おく。近くに浮かんでいた魔素がマグメルの腕に絡みつくように飛び交う。
「創造神様、どうぞ魔素を──『福音』よ、来たれ!」
マグメルは厳かにそして力強く叫んだ。
浮遊していた魔素が光の渦となり、クリスタルに吸い込まれていく。そしてクリスタルは眩ゆい黄金の光を空間いっぱいに解き放った。
その様子がいつもと大きく異なっていることに驚くマグメル。
「ん──眩しい」
突然、クリスタルの放つ光の中から艶かしい声と共に一人の女性が現れた。
光の中から現れたその女性は純白の細長い布を巻くように纏っただけで、ほとんど裸体だった。
その布の隙間から覗く大きな胸、すらりと伸びた長い手足は真珠色で美しい輝きを放っている。
そして腰あたりまでの長さの、緩やかにウェーブのかかったローズマゼンタ色の艶やかな髪は男をくすぐる女の色気を漂わせていた。
神々しくも妖艶なオーラを放つ女性にマグメルは目を丸くする。
女性は顔にかかったその髪を後ろにかきあげた。
そこにあったのは大きな目、長い睫毛、紺碧の瞳、薄桃色の唇、整った目鼻のライン。全てが精密に計算されたかのような美しさだった。
「──私の名前はアプロディーテ。愛と美を司る者。貴方の導きによりこの地に降臨しました」
アプロディーテと名乗る女性はその澄んだ瞳でマグメルを見つめた。
呆気にとられていたマグメルは慌て言葉を返す。
「は、は、初めまして。僕はマグ、マグメルといいます」
「マグマグメル?」
「い、いえ。マグメルです」
「ふぅん、マグメルちゃんか……よろしくね」
アプロディーテはそう言うと、自分の胸や尻、下腹部を触り始めた。
「んん……ん、肉体って不思議な鎧ね」
漏れる吐息のような声で呟くアプロディーテ。マグメルは顔を真っ赤にして下を向いている。
「ねぇ、マグメルちゃん。貴方に三つ言っておかなくてはならないことがあるの、いいかしら?」
マグメルは何を言われるのかと、不安そうな表情になる。
「は、はい。何でしょう?」
「一つ目。貴方、魔素を全然持ってないでしょ。私、魔素がないと何もできないの……」
アプロディーテはマグメルの鼻のラインをゆっくりと人差し指でなぞる。
「二つ目。ここ貴方のダンジョンよね? 殺風景でおまけに汚れてる……私、汚いものが大嫌い」
アプロディーテの指がマグメルの鼻先をツンと優しく弾いた。
「そして三つ目。貴方……死のカウントダウンが始まってるわよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます