第24問 学年157位の生徒が、学年10位以内に入ることはできる?
中学3年、1学期。5月。
中間テストが無事終わった。
テスト結果が無事かどうか分からないけど……。
中間テスト後、テントリにて。
「勇気、テストどうだった?」
「いやー分からないっす」
「450超えられそう?」
「んー、どうなんでしょうね」
入口にいた狐塚先生と軽く話す。
テスト結果がまだ出てないから何も言えない。
450点なんて超えられたことないから感触も分からないし……。
こんなことなら1年のときクラスメイトだった
く、せっかく《
「勇気! やっと会えた! 国語どうだった?」
塾の中を進んでいくと、栗原先生が大袈裟に出迎えてくれる。
いやそんなに久しぶりじゃないですよね。
ばっと腕を前に伸ばして、握手を求めてくる栗原先生。
まだ早い、それまだ早いです。
でも、無視するのは可哀そうだから取り敢えず応えると、ぎゅっと強く握られる。
「ってことは、感触良かったんだ?」
「違います!」
テントリでのテスト後あるあるだ。
テントリの先生たちは僕たち生徒に興味津々で、塾に誰か来る度に「テストどうだった!?」と聞きに行く。
なんか微笑ましいな。
それにこういうふうに声を掛けてもらえると、くすぐったいけど悪い気持ちはしない。
気にしてもらえてる。認識されてる。もっと俺を見てくれ! って感じ。アイドルか。
とにかく、いい気分で授業や自習に励めるのだ。
テスト後のTクラスの授業にて。
教室にやってきた勇気先生は、ホワイトボードの前に立つなり、すぐに訊いてきた。
「テストどうだった?」
はいはい。予想通り過ぎてもう何も言えない。
「めっちゃできました~!」
「わたしも今回自信あります!」
「俺はいつも通りな感じです」
「普通ー」
Tクラスの生徒たちが次々と返事をする。
一方で、僕やナッカーは静かにみんなの話を聞いていた。
あんなふうに大声で返事するの恥ずかしくて無理。
でも、勇気先生はそういうのお構いなしだから「人前でも堂々と話せる組」の話に区切りが付くや否や、すぐさま僕たち「人前ではあんまり話したくない組」に話をふってくる。
「ピロピサは?」
ピロピサって言うのはナッカーのこと。
名前がヒロヒサだから、それをふざけて言ってピロピサ。
勿論ナッカーは返事しない。
きっと自分の名前に誇りを持っているんだろう。
「ピロピサって誰ですか?」
と、頑なにその態度を崩さない。それとも軽いギャグのつもりなのかな、お互い。
その後、勇気先生はオッサーにも訊いて、最後に僕を見た……そんなに見詰めないでください。
「まだ結果出てないんで分からないです」
我ながら当たり障りのない、なんの面白味もない返事だ。
すいません、つまらない人間で。
でもそれ以外、言いようがないし……。
質問が悪い! 以上!
「先生聞いてくださいよ! 社会の下田が~!」
「国語の問題で~」
「今日の授業、テスト終わって疲れてるんでなしにしてくれませんか?」
Tクラスのメンバーは数学の授業中なのに、他の教科のことまで話し出す。
それを勇気先生があーだこーだと生徒に負けないくらい元気に返す。
その様子を僕はぼけーっと眺めていた。
テストが終わったその日は肩の荷が下りた感じで、すごい解放感に包まれていた。部活動休止期間も開けて、久しぶりにボールに触れたし、今日はすごく調子がいい。
テスト後すぐにまた勉強を再開できるかどうか。
勇気先生がいつだか僕に言った言葉だ。
全くその通りだと思う。
テストのときだけ勉強するんじゃ身にならない。
でも、テスト直後は気が抜けちゃうなぁ。
僕はいつもより大分出力を落として授業を受けた。
「それでどうだったの?」
勇気先生は授業後、僕と2人きりになって改めて聞いてきた。
みんなの前だと言い難かったんじゃないかと思われたのだろう。
「社会はいい感じでした」
「それは聞かなくても分かる」
簡単に言ってくれる!
「いやいや! 社会だっていつも真剣勝負ですよ! いい点取れる保障なんてないんですから!」
特に今年からは公民の授業が中心だからなぁ。
「450点超えたらパステルのプリンおごってやるから、楽しみにしてろよ」
「450超えて欲しいですねぇ……」
僕は消え入りそうな声で祈るようにそう言った。
そしていよいよテストが返却され始めた。
* * *
学校、国語の授業にて。
僕は緊張しながらそのときを待っていた。
国語担当の女性教師が、黒板にすらすらと達筆をふるっている。
国語はやっても意味がない。
勉強しても上がらない。
結果発表のときを待ちながら、自分が言ったことを思い出す。
あの国語に対して全然やる気がなかった僕が、今回のテスト勉強のときみたいに国語を一生懸命やる日が来るとはなぁ。
それまで国語のテスト前は「僕はちゃんとやった!」って思い込んでたけど、点数が示す通り、まだやれたんだなと思い知らされる。
やったつもりになってて、その実、人事を尽くしてなかった。
そして悔しい結果を経験して迎えた今回の国語のテスト。
テントリの先生たちには言わなかったけど――
実はかなり解けた自信がある。
でも、国語って教科に関して、僕はどうにも自分の感触を信じられない。自分の感覚が全く当てにならない。
できた! と思っても、71点とか74点とかだったし……。
もう調子こいたことは言わない。
先生たちを期待させるだけ期待させて、思いっ切り裏切っちゃ悪いし。
それでもやっぱり期待してるのか、僕は緊張しながら自分の番を今か今かと待ち望んだ。
そして間もなく、僕の番が回って来て――
テストを受け取った僕は、軽く二つ折にされたテスト用紙をそのままにして自分の席に戻る。
恐くてすぐに見られない。
またダメだったらどうしよう。
そんな悪いイメージが頭の中を駆け巡る。
でも最終的に好奇心が勝って――
「うわぁ……!?」
「あはははは、ウケる! どうした!?」
席に座る前に二つ折にされたテスト用紙を開いた僕は、腰が抜けたかのようにその場でお尻からどすんと落ちる。って、めちゃくちゃ恥ずかしいぞ、僕!?
望んでないのに悪目立ちしてしまったけど、それも仕方ない。
だって、国語のテストが……。
今年も同じクラスだった斜め後ろの席に座る武蔵が「何点だった?」とシャーペンで脇腹を突いてくる。やめなさい。
僕は武蔵とテスト用紙を見せ合いっこする。正確にはまず僕から先にひんむかれた。この鬼畜!
武蔵の国語のテストは90点。中学2年の2学期期末テストから勝負し始めたから知ってるけど、武蔵は国語のテストがめちゃくちゃいい。
なんなんだこいつ……。
こっちの弱点科目で大差をつけようとしてくる。
でも、今回はそうはいかなかった。
「いやー久しぶりに取られました。最後に取られたのいつだったかなぁ……」
国語担当の女性教師――小林先生はしみじみとそう言った。
「おぉ!?」と斜め後ろの武蔵と、隣の武蔵の友達がにこにこ笑いながら声を上げる。やめて、叩かないで、誰のことかバレる!
武蔵の手荒い祝福を何とか退けながら、僕は感慨に耽っていた。
そうか、久しぶりだったんだ。
――この授業で成績上がるんですか?
――国語はもういい。あれはもうダメだ。
――国語の分は他の教科でカバーすればいい。
――やつは我らの中で最弱。
これまでの苦難が去来する。ちょっと捏造されてるけど。
僕の国語のテスト用紙には記されていた数字は――100点。
そう、満点だった。
絶対的エース科目である社会でもまだ取ったことがないのに。
中学の定期テスト、100点満点第1号はまさかまさかの国語だったのだ。
栗原先生の、遡ればサナミ先生の指導がようやくここに結実した瞬間だった。
そして国語で今までより30点近く上積みできた僕は――
国語――100点。
社会――95点。
理科――90点。
英語――88点。
数学――84点。
5教科合計――457点。
学年7位。
この中間テストで、入学以来初めて450点を超え、
さらに念願の学年10位以内にランクインしたのだった――
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