時雨ファミリー②
「さあ、結果を聞かせてもらおうかしら。そして封筒を引っ張る力を少し緩めなさい」
二人は雪のプルプル震える腕に気づいて力を緩める。
「それじゃあ、結果だけを簡潔に述べなさい」
「……成果はありませんでした」
時雨が視線をそらしながらつぶやいた。
「霧。あのとてつもなく恥ずかしいポスターを街中に貼る条件はなんだったかしら?」
「……必ず結果を出すことです」
「あら? 少し足りないわね」
「……結果が出なかった場合、次のお小遣いが無しになります」
霧も視線をそらしながらつぶやく。
「はい、良くできました。それじゃあ今月のお小遣いは――」
「まてまてまて!」
たまらず時雨が割り込む。隣では霧が、頑張れ! といった表情で時雨を見ている。
「なにかしら?」
「なあ雪、年功序列って知ってるか? ここは一つ年上である俺達の顔を立てることも大事じゃないのか?」
「まあ、年功序列なんて難しい言葉知ってるのね。人生一回きりの女子高生に部活も我慢させて、毎日毎日掃除や洗濯と身の周りの世話をさせてる上に、友達とお休みの日に遊びに行くのも我慢して週に一回の裁縫教室をあたしに開かせてなんとか家計を維持させている、仕事を選り好みばかりして全然収入を安定させないゴミの様な男なのに」
「…………」
雪は笑顔のままだが、時雨はちょっと泣きそうだ。
「あ、あはは……。立つ瀬がないね時雨」
「あら霧、素敵な笑顔ね。あのポスターを描いてた時も、とっても楽しそうにそんな素敵な笑顔をしていたわね。……時雨と二人で」
二人とも笑顔のまま、しばしの沈黙が流れる。
「ね、ねえ雪。僕は一応は働いてるよね? 頑張ってる……よね?」
「ええ、そうね。霧には基本的に感謝しているわ。でも、それはそれ、これはこれよね?」
「……」
それでも二人は笑顔を崩さない。
「そうね、ついでだから言わせてもらうけど、霧には普段から感謝しているのよ。でもその感謝も、たまに時雨に付き合う悪ふざけのせいで台無しになってるわ。私達みたいな仕事はイメージが命だから、二人が知らない間に一体何人の人に謝って回ってると思ってるの? あたしは二人のお母さんじゃないのよ? ていうか、貴方はやってきた依頼に関しては真面目にやってくれるけど、新規のお仕事は全然取ってこないじゃない。あたし放課後ちょっと遠回りで帰って仕事を見つけてきたりしてるんですけど。家に帰る通学路くらいは落ち着きたいんですけど?」
「…………」
雪は笑顔のままだが、霧はちょっと泣きそうだ。
「異論はないわね? 、二人とも手を離し――痛! ちょっと時雨! よくも手を叩いたわね! あ! ちょっ! 待ちなさい時雨ー!」
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