第60話 白雪姫は永遠に眠る 13
「王子さま・・・、お待ちしておりました・・・王子さま─────!」
「・・・ちょっと待って、僕は君の王子さまじゃないよ!?」
ああ、これはいつの記憶だろうか。
懐かし過ぎて、もうあの人の名前も顔も思い出せないけれど。
でも私はずっと、あの日の理想に囚われていた。
渡り鳥さん。
想区を旅する、運命を持たない旅人。
彼に焦がれて何年経ったのだろう。
私は永遠の白雪姫。
本当のお母さんが私に沢山の物をくれた。
誰もが羨む美しい容姿と、決して滅ぶ事の無い永遠の命。
美しい王子様も、やがてはお義父さんに変わって。
本当のお母さんの記憶は遥かな過去に。
お義母さんや王子様が何代も入れ替わる中で、私と小人さん達はずっと取り残された存在だった。
そう、私は永遠に
皆から愛されるけれど、本当の愛は知らずに生きてきた。
この想区における白雪姫は一人で何代にも渡って役割を担う。
そして舞台の幕が上がる度に、白雪姫の記憶から過去の記憶は消される。
当然だ、同じ事の繰り返しに耐えられる役者はいない。
だからストーリーテラーは、白雪姫の記憶を夢の出来事に変換するのである。
そして今回、白雪姫がそれに気付けたのは、レヴォルのキスがあったから。
キスによって白雪姫は、本来の記憶を取り戻したのである。
「白雪姫!!レディが裸足で駆け回るなんていけません!!」
「白雪姫!!読み書きを覚えるようになるまで遊ぶのは禁止です!!」
「白雪姫!!護身術の訓練ぐらいで泣くなんて、先祖の霊に恥ずかしくないのですか!!」
ああ、こうして振り返ってみればお義母さんはいつもいつも厳しい。
役割をこなしているからだとしても、みなしごで親の愛を知らない子供に対して少しくらい優しくしてもいいのに。
こうして振り返ってみると、王妃の白雪姫に対する仕打ちは、過剰な程の英才教育に過ぎない物だ。
だからこそ白雪姫は、役割さえ無ければ、魔法の鏡さえ無くなれば、王妃と和解する事も出来るのかもしれないと思っていたけれど。
(でも、おかしいよね、自分を殺すって分かっていて育てるなんて、現に今、お義母さんと戦う事が出来たのだって、七代前のお義母さんに剣術を仕込まれたからだし)
そう、全ての記憶を取り戻したという事は、全ての経験値が戻って来たという事。
何代もの王妃と過ごした日々が今、白雪姫の中に息づいているということ。
(今までのお義母さんはずっと憎まれ役だった、私がお義母さんを殺しても後腐れが無いように、一縷の情けもかけられないように清々しいくらいに悪役だった、でもどうして?)
だってそんなに忠実に悪役をこなせる人間なんていない。
普通ならば、情けをかけて貰えるように私を懐柔するなり、私が幸せになれないように呪いをかけたりしてもいいはずなのに。
お義母さんは何代も何代も、ただ私を厳しく突き放して、そして最後は潔く死んでいた。
幼い私には分からなかったけれど、今なら分かる。
お義母さんは悪役のプロだ。
己の役割に誇りを持って、だからこそ最期まで悪役を貫き通せたんだと。
でもどうして?
こんな容姿と血筋しか能が無い子供に、何もかもを奪われて死ぬ人生の何に充実感を得られるのだろう。
私ならそんな役割受け入れられない。
運命に抗ってでも止める筈だが。
何故、そんな理不尽を受け入れられるのだろう。
・・・・・・。
「俺は愛とは、許す事だと思う」
許す事が愛。
理不尽を受け入れるとはつまり。
そこに愛があるということ。
お義母さんの愛。
それを聞かない事には。
「まだ、終われないよね!!」
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