光と血潮のハイタイド

 試合開始と同時に2人の少女が使ったのは自分の腕でも脚でも無く、口だった。


 アタエの方は大きく口を開いて空気を取り込む。

 ヒメカの方は自身の左親指の先端を噛み千切る。


 アタエの発動。

 H-11-F『四次元口』

 口の中に入る物ならば、何でも無限に蓄積出来る。


 それは時間にして数秒だったが、十分な量の空気を吸い込み、次の能力を発動させた。


 アタエの発動。

 C-02-L『海帰』

 戦闘エリアを大海原に変更する。


 2人が海に沈み、ヒメカの周りは指からの出血で赤く濁る。ヒメカは傷を押さえながらもアタエからの追撃を警戒したが、どうやらその様子はない。海上を目指すヒメカとは違い、アタエは『四次元口』で溜めた空気を自身の肺の中に吐き出して、海中に留まるつもりのようだ。


 ヒメカが水中から顔を出す。それでもまだアタエは動かず、海中でじっとしている。

 『海帰』には他のC-L系能力と同様に時間制限がある。能力が発動してから5分後には、狂暴な鮫が海中に召喚され、その時点でよりダメージを負っている方を狙って攻撃を開始する。現時点で攻撃の対象になるのはヒメカ。自身でつけた指の傷が癒える事は無いからだ。


 しかしそもそも何故ヒメカは開始早々に自分の指を噛み千切るという行動に出たのか。そこに脱出の鍵がある。


 ヒメカの発動。

 Aー14ーT『強制輸血』

 触れた生物の血を増やす。


 右手で左手の傷口を押さえ、ゴムホースの先端をつまむような要領で出血の勢いを増す。あまりの痛みに気絶しそうになるが、メンターからの指示なので仕方がない。そして『強制輸血』により失血死の可能性は無くなった。更に、


 ヒメカの発動。

 C-23-M『ベクトル』

 対象の物と同じ方向、同じ速さで移動する。


 自身の指から噴出する血を対象に能力を発動する。当然、血は空中に向かって動いているので、それと同期すればヒメカの身体も宙に浮かぶ事になる。


 大海原に血の雨を降らせながら、ヒメカは空を飛んでいる。あれだけ青かった海が、見る見る内に真っ赤に染まっていく。ヒメカは痛みに耐えながら、じっと海面を見続ける。アタエの『四次元口』は入れられる量こそ無限なものの、空気を吸い込んだのは限られた時間だった。という事は必然、鮫が来る前あるいは息が続いている内に海面に顔を出す必要がある。


 1分、2分と経過した。ヒメカは涙を浮かべながら、それでもアタエが顔を出す一瞬を見逃すまいと凝視し続ける。そして、その瞬間はやってきた。


 アタエが顔を出す。しっかりと見据えたヒメカが最後の能力を発動する。


 ヒメカの発動。

 H-26-F『ヒートアップ』

 両目で見た部分に熱を加える。


 これを使い、口を開けたアタエの喉の内側を狙って焼こうというのがヒメカの狙いだった。また海中に戻るにしても、口はしばらく開けていなければならない。焼かれるのを嫌がって口を閉じれば、空気は十分に蓄えられない。


 だが、ヒメカのそんな思惑は我慢の甲斐無く外れてしまった。


 アタエの発動。

 A-24-R『オートリフ』

 対象の能力の発動に対してエネルギー弾を発射する。


 アタエは何もせず海中でじっとしていた訳ではない。ヒメカが自身に『強制輸血』を発動させ、噴出する血を『ベクトル』で同期させる度に1発ずつ発動した『オートリフ』を『四次元口』によって内側に溜めていたのだ。


 その数、実に1000発。


 アタエの口から放たれた閃光は、重なりすぎて巨大な1本の光の柱となって空中を飛ぶヒメカを貫いた。

 

 静寂の後、ほんの一瞬の内に跡形もなく蒸発したヒメカ。最後の血の1滴が、海にぽたりと落ちた。


 決着。

 アタエの勝利。


 参加メンター

 ヒメカ(クエスト:02) 百足甚三郎様 次元結晶+1(所持数:3)

 アタエ(クエスト:01) 坤 艮様 次元結晶+2(所持数:4)



 感想

 クエストが始まって初の対戦リプレイになりましたが、どうでしょう。コメントの方でも頂いていますが、クエスト:02の難易度がかなり高くて、一体どういう戦略が考えられるのかというのが楽しみだったんですが、ヒメカ側の作戦は驚きの一言に尽きます。個人的に本当痛そうでかわいそうだなと思ったので、さりげなくメンターのせいにしておきました。かわいらしい少女に自分の手で拷問させるなんて、世の中には酷い奴がいるもんですね。

 あとクエスト外でも通常賛歌は頂いていて、そちらの方もやっていくつもりですが、クエストのテストも兼ねたいのでしばらくこちらを優先するかもしれません。ごめんなさい。

 ご参加ありがとうございました。またよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る