第17話 六戦鬼 現る!!

ドセロイン帝国総督室。そこに一人の男がいた。


左腕に赤い布を巻き付けたその人物は、バーキロンだった。


黄金色に輝く太陽のように明るい整った髪。軍服に包まれたその佇まいは育ちの良さが鑑みえる。




先日のカース隊長指揮のもと行われた、サセッタ アダルット地区支部殲滅計画は大敗北に終わった。




レジスタンスとの初の交戦が行われた事実は瞬く間に世間に広まった。




一般認識からはレジスタンスが相手取るのは、絶大な権力と軍事力を誇るマセライ帝国の属国ということもあり、レジスタンスに参加もしくは保護してもらうための行動は多くはなかった。




それが例えレジスタンスにより暴かれた―――『C.C.レポート』内容通りに人類を陥れようとしている帝国であっても、長いものには巻かれる方が長期的に見たら安全かもしれない、我慢すれば済む話だという心理が働いていたからだろう。






レジスタンスはしょせん一過性のもの、それが人造人間レプリオンになっていない純人間の考えの大半であった。








しかし、先の一件―――アダルット地区炎上以降、レジスタンスにも抵抗するだけの戦力が整っていることが証明された。


そのため、真偽は定かではないがレジスタンス サセッタに参加する人数は以前と比べて数倍にもなっているとの噂が立っていた。






ドセロイン帝国内ではその噂の火消しや計画失敗による軍事再生が行われていた。


そこに総督室に招集されたのが軍幹部六戦鬼セクスセインだった。




アダルット地区炎上当事者で代理指揮を執ったバーキロンもその集められたうちの一人だった。


彼は現場での的確な状況判断や持ち帰った情報の貴重さを認められ、空いた隊長の座を若くして勝ち得たのだった。






集められた総督室は臨時会議が開けるよう一時的に開放的な空間になっていた。


それでもなお、煌びやかな装飾品が部屋のいたるところに施されており、富を一部の人間が独占していることをまざまざと見せつけられているかのようだった。






視線を少し上にあげると、壁には歴代の総督の肖像画が掲げられている。


高そうな額縁がこれまたバーキロンの目についた。








やがて戸が開くと、総督をはじめとする各要人たちが集まってきた。


バーキロンは壁に寄り移動の妨げになるぬように気を遣う。




「皆、よく集まってくれた」




楕円状の細長い机に全員が所定の位置に腰を下ろすと、髪が白くくすみがかった壮年の男が重苦しく言った。


カチリとした軍服には複数の勲章が掲げられておりその地位を主張している。ドロセイン帝国の総督、それが彼の与えられた役職である。






「そして、六戦鬼セクスセインも遠方よりわざわざお越しいただき感謝する」






六戦鬼セクスセイン―――先の人造人間技術レプリオンテクノロジーを巡り起きた人類史上最悪の戦争、双極帝国戦争時に鬼神のごとき戦闘力で敵連合軍を殺しつくしマセライ軍を勝利にへと導いたとされる六人の猛者。






特殊な人造人間技術によって作られた彼らがいなければ、圧勝だった戦争は負けていたとさえ言われるほどである。逆に言えばその六人が圧倒的戦況をひっくり返すほどの実力を秘めていることに他ならない。






彼らは一堂に会することはめったにない。普段はそれぞれの帝国全体の守護を統括している。


マセライ帝国、属国のヌチーカウニー帝国、ロンザイム帝国、そしてドセロイン帝国、これら四つの帝国に彼らは各々在籍している。






その彼らが今回ドセロイン帝国に召集されたのは言うまでもなくレジスタンスサセッタに関することだった。






「知っての通り先日、我らドセロイン帝国はネズミどもの住処を見つけだすことに成功し殲滅しようとした。しかし、いざ蓋を開けてみるとどうやら本拠地ではなかったようだが……拠点にしていることは間違いなかった。我らは世の安定のため粛正することにした」






「……だが、うまくいかなかった。


噂じゃきいてるぜ。凡ミスも凡ミス、本拠地をつかむどころかやり返されてしっぽ巻いておめおめ逃げ帰ってきたんだろ。


お前ら笑い話を作りに行ったにしちゃ費用かけすぎじゃねえか?」






せせら笑いながらそう言ったのは六戦鬼セクスセインの一人、ゼノだった。二メートルは超える大柄の身長に隆々とした体つきを見せるかのようなはだけた服装。


そして室内にも関わらず鋭く伸びた殺人的なサングラスをしている。本人曰くオシャレを意識しているらしい。




「部下の暴走と独断によるミスだ。俺らの指示は的確だった、非はない」




総督の代わりに答えたのはこれまた六戦鬼セクスセインの一人、ボリスだった。


カースの直属の上司に当たる人物だ。


ほとんど坊主といってもいいほど短く刈り上げられた髪は上半分のみ派手に染められていた。






その言葉を聞いてゼノは大きくため息をつきながら髪をかき上げる。






「ボリスよ~、その言い訳はお前が部下を躾けて従わせるだけの度量がなかったって言ってるようなもんだぜ」








「無能が一人、自ら散ってくれて手間が省けたのだ。もう少し多面的に物事をとらえてはどうかな。


それにむしろお釣りがくるほどに取って代わる有能な人材と情報を発掘することができたのだ」








そう言って隅に立つバーキロンを見る。






「現場にいた彼の機転のおかげで必要最小限の犠牲と被害で済んだ」






「ろくに武装もできん格下相手に犠牲たァ、ずいぶん悠長だな」








「お前が何を勘違いしているが知らんが、もとより焼き討ちによるあぶり出しが目的だ。最低限の戦闘許可しか出していない。


功を焦りたった百人余りの兵で無断で特攻した時点で本来の作戦が破綻していたのだ。しかし、そのような最悪な状況の中でも彼のおかげで値千金の情報を手に入れた」






ボリスが総督とバーキロンに目配せをする。


すると部屋が暗転し、机の中央に立体映像ホログラムが投影された。






「ここからは小型無人自動偵察機に収められた映像をもとに僕が説明したいと思います」




話し始めたのはバーキロンだった。


そうそうたるメンツを前にさすがに緊張しているのだろうか、言葉にいつも以上に力がこもってしまう。






「僕がアダルット地区についた時にはすでに隊長の姿はなく他の者が指揮を執っていました。


しかし、分小隊からの情報過多・錯乱によってすでに統率は取れていない状況でした。全体を把握するためそれぞれの小隊に小型無人自動偵察機を飛ばし戦況を把握し―――」






「ちょっとまて。その言い方だとお前は後から来たのか?」






バーキロンの言葉を遮り目ざとくゼノがつっこむ。


しかしすぐ静止が入る。






「ゼノ、お前が口を開くと終わるものも終わらん。君、続けたまえ」






そう言ったのはマセライ帝国副総督である。


ゼノは不満そうな顔を全開に出しながら押し黙る。


流石に世界No.2の権力を持つ副総督には反論しなかった。






バーキロンは内心ほっと胸をなでおろした。


中断された続きをしゃべる。






「そこで撮影されたのがこちらです」




会議室にいる全員が中央に浮かぶ立体映像を注視する。






映像は炎に覆われているアダルット地区でのものであった。


雨が降っているにもかかわらず荒廃した建物に火が次々乗り移っていくのが分かった。


そこに小隊の一組の姿が映し出される。数は十名。手にはレーザー銃を構え、サセッタの関係者を探している様子が映し出された。






すると小隊の目の前に立ちふさがるように一匹の黒猫が現れた。


兵士たちは猫に向かって砂利を蹴り飛ばし通り過ぎる。






すると次の瞬間、黒猫の姿は肌が褐色の女性の姿へと変貌を遂げる。


兵士たちは気づいている様子はない。


女が何らかの武道の構えをしたかと思うと、次の瞬間、小隊の背後から勢いよく掌底を放った。




最初の一人に攻撃が入ると前方の数人を巻き込んできりもみ状に吹き飛ばされた。兵士たちは振り向き銃を構えるがそこに女の姿は無かった。




女は黒猫に姿を変え上空に舞ったかと思うと、再び元の姿に戻り、そして残りの兵士たちを一掃した。






映像はここで終わった。


暗かった部屋に電気がともる。


バーキロンが口を開く。






「映像はここまでです。新人種のセリアンスロープは完全に姿かたちを変え変幻自在に戦ってきます。


また、一部のセリアンスロープの戦闘力は六戦鬼セクスセインに匹敵するとも考えられています。


実際、最大戦力を送り込んだ仮拠点地の六十余人は撤退できたものが三割弱、対して相手は一人だったそうです。


その時居合わせた兵士たちは口をそろえてこう言ってました。『まさに鬼神のごとき怪物がいる』と……」




バーキロンの最後のその一言に六戦鬼セクスセイン全員が無言で反応する。


それを目の端でとらえながら、バーキロンは「報告は以上です」と締めた。




入れ替わるようにドロセイン帝国の総督が前に出る。






「では、本題に入る。マセライ帝国およびその属国に従事する六戦鬼セクスセインの限定解除の承認に移らせていただくとともに、先ほどの映像のほか、多数の戦闘データからの詳しい分析結果を元に、今後のレジスタンスの対応についての会議を始めるたいと思う」


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