第71話 すれ違う果てに 2
――のだが、画面がそこから先に進むことはなかった。
「暮…………斗?」
『……あまねか。よかった。出てくれた』
電話の向こうの暮斗の声は非常に優しいものだった。聞いてるだけで安心感が生まれる、いつもの。
『突然で悪いけど、今から会えないか? ……というか、会ってください。どうしても聞いて欲しいことがある。俺を嫌うにしても、とりあえずその話をしておかないと俺はお前にもあやねにも申し訳が立たない』
「えっ……で、でも……」
『好都合だ。そのまま呼び出せ』
インカムから通話内容を聞いているのか、間が冷徹に命令を下す。
「……うん。わかった」
『ありがとう。で、今どこにいる……って」
――その瞬間、暮斗の声が電話越しではなく直接耳を通して聞こえた。
「あまね?」
「暮斗……」
まさに奇遇。
偶然、暮斗はあまねがいた場所に通りかかったのだ。
「……偶然だな。まぁ待ち合わせをする手間が省けた」
「う、うん」
二人の会話はどこかぎこちなかった。当たり前だ。前に、あんな最悪か別れ方をしたのだから。
『……誘導しろ。そこの路地に入れ』
そんな中、耳の中に響く間の声。
あまねはキュッと目を閉じた。頭がパンクして、何も考えられない。
――そしてあまねは、間の言う通りになる。間が指定したポイントへと歩を進めた。
「そっちか?」
「………………うん」
暮斗はなんの疑いも持たずあまねの後についてくる。
二人はしばらく無言だった。
暮斗はどう話を切り出していいかわからず、あまねは暮斗と間のことで息が詰まり押し潰されそうになっている。
だが、先に切り出したのは暮斗だった。
「……なぁあまね。お前はあやねが悪は絶対許さないマン……俺に殺されたって誰から聞いたんだ?」
「……やっぱりあんたが悪は絶対許さないマンなのね」
「黙ってて悪かった。でも、怪人に歩み寄るためには素性は隠さなきゃいけなかったんだ。悪は絶対許さないマンは……怪人にとっては最大の敵だからな」
暮斗は苦い顔をする。
「……でも、なんで誰に殺された、なんてこと聞くの? お姉ちゃんはあんたが……」
「それだ。なんでかは知らないけど、お前は一つ思い違いをしてる。これは神に誓って、お前に誓って、あやねに誓って言えることだけど、俺はあいつを殺してない。死に関わったのは事実だ。でも、絶対に殺してない」
あまねは瞬間キョトンとした。
なにを言い出すかと思えば、まさかそんなことを言うとは予想外だったのだ。
「えっ……ちょっと、どういうことよそれ。お姉ちゃんは悪は絶対許さないマンに殺されたって……」
「違う。俺は殺してない。確かに他の怪人は沢山殺した。人を殺す怪人を山ほど殺した。そこは弁明の余地がない。一生その罪を背負って生きるつもりだ。でも、
「……なによそれ……どういうことよ……!」
あまねがわなわなと震える。
――そしてあまねも気づかないうちに、狙撃ポイントへ到着していた。
「話は俺が最後に悪は絶対許さないマンとして姿を現した戦いの時のことだ。あの時俺は怪人を全て殺そうと息巻いてた。あの時ほど怪人が憎いと思ったことはない。なんでかというと、俺が一番信頼していた人がヒーロー協会にスパイとして潜り込んでた怪人で、俺を騙して逃げたからだ」
「その話がなんの関係があるのよ」
「最後まで聞いてくれ。それで絶望のどん底に落ちた俺は、次にある大規模抗争で全てを怪人を殲滅すると決めた。それで抗争の日、俺は仲間を失い、本来ヒーローとして守るべき街もボロボロにした。そして俺はある一人の幹部と出会った。数人いるうちの幹部の一人でも倒せれば一気に怪人連盟の力は弱まるからな。俺は全ての力を賭して戦った」
「……結果は?」
「俺の勝ちだ。けどそれは試合とした見方だけどな。その幹部は俺に勝てないことを悟ってたみたいで、体の中に罠を仕込んでたんだ。俺はそれに捕まって、身動きが取れなくなった。勝負は痛み分けにしよう、と言ってたな」
瞬間、暮斗の顔に陰りが見えた。暮斗にとっても当時のことは苦い思い出なのだろう。
あまねは心から聞き入っていた。暮斗が何を言うのか、なにがあったのか。そして、暮斗と姉の間になにがあったのか。
それを知らないわけにはいかない。
――と、あまねはそこでハッとして慌てて周囲を見渡した。
ここは間が指定したポイントだ――!
「ダメ暮斗、ここは――!」
『足止めご苦労。全員、撃ち方構え! なんとしてでも悪は絶対許さないマンを殺せ!』
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