第53話 vsイビル・スレイヤー 4
「……あまねはなんで私たちを助けてくれたの? 怪人連盟にいるならそんなことしちゃダメだよね」
「それは……」
佳奈の質問にあまねは瞬間口を閉ざした。だが、今度こそ逃げないと決めたのか、真っ直ぐな眼差しで佳奈を見た。
「それは、復讐と友達、どっちかを選ばなきゃいけないってなった時友達を選んだからよ。暮斗ともう一人の人に、なにを選んでなにを捨てるか決めろって言われたの。……もしあたしが上司の命令であんた達を殺せって言われた時、二人を殺せるかって話しをね」
あまねの表情は浮かない。
「そんなの絶対嫌だったの。あんた達はあたしのことを心配してくれたわ。こないだくれたメールが悩んでたあたしを救ってくれたの。そんな二人と決別するのは嫌だったの。……でも、結局あたしは二人を裏切ってたことになるわよね。そんなあたしが二人といていいわけがないのよ」
「それが違うわ」
「それは違うよ」
二人は同時にあまねの言葉を否定した。
暮斗は二人があまねを拒絶するわけがないと踏んでいたのだ。
「でも最終的にあまねは私たちのこと助けてくれたでしょ? 別に私はあまねが怪人だからってどうってことないよ。確かに怪人は怖いけど、あまねは別だよ。だってあまねは私の友達なんだから」
「佳奈の言う通りよ。貴方は私たちのために命を懸けて守ってくれた。それだけで私はあまねを信用できるわ。怪人だとかは関係ない。あまねはあまねなんだから」
「二人とも……」
佳奈と愛梨沙は涙ぐんだあまねをぎゅっと強く抱きしめた。あまねも二人を抱きしめ返す。
「ありがとうあまね。助けてくれてありがとう……」
「貴方は命の恩人よ。ずっと友達でいてね……」
「うん……。ありがとう……。好きよ……」
――ほら、大丈夫だった。
確認できた暮斗はようやく一息つくことが出来た。
そもそも、初めて会った時の第一印象からして二人があまねを拒絶するわけがないと信じていたのだ。
二人には怪人に直接何かされたわけでもない。ならばあまねに対して深い憎悪を抱くわけがないと踏んでいた。佳奈も愛梨沙も友達思いである。
そんな二人があまねを嫌うはずがなかったのだ。
そして暮斗は確信した。これまで困難だと思っていた自分の夢を叶えることを。
怪人であるあまねと、人間である佳奈と愛梨沙、ヒーローである暮斗自身というモデルケースが出来た。
――怪人とヒーローは共存できる。これはその一つの足がかりとなる。
救われたのはあまねだけではない。他でもない暮斗自身でもあったのだった。
「――よう、暮斗。どうだった?」
と、瓦礫を踏み分けて四人の前にガイが姿を現した。
だが気がついたのは暮斗だけだった。
「ガイか。いや――。上出来だよ」
暮斗は長々しく言葉を飾らなかった。
目の当たりにするものだけで、全てが伝わるのだ。
「ああそうか……。正直最初はお前の夢を叶えるのは無理なんじゃないかと思ってたが……なんとかなりそうなんじゃないか?」
「俺もそう思ったところだ」
「HAHAHA。俺もヒーローだけど戦うのが大好きだってわけじゃない。お前の夢が叶うのを待ってるよ」
「ああ。また力を貸してくれよな」
「任せろ。……ところで」
ガイは一度そこで話を切ると、笑顔だった表情がころりと変わった。
「……あまねちゃんのことだが」
「あまねがどうかしたのか?」
「……これは友としての忠告だ。お前はもっとあまねちゃんのことを『知れ』。あの子のことをお前はまだなんにも知らないだろ」
「……あまねのことを?」
「そうだ。いいか? あまねちゃんは恐らくあの子達と生きる決断をしたんだろう。俺はこないだあの子の身の上の話を聞いたが、あの様子だといい選択をしたんだと思う。けどな」
空気感は一転する。
「――復讐をやめたからって、あの子を倒したヒーローへの憎悪が消えたと思うなよ」
暮斗はその言葉を聞いてハッとした。
確かにあまねは怪人を続ける道を選ばなかった。
だがそれは姉を倒したヒーローへの復讐心を消したわけではなく、ただ押さえ込んだだけなのだ。
まだどうなるかわからない。
そして暮斗は二人から、あまねの姉を倒したヒーローは誰だかわからなかったと聞いていた。
目の前の男は、自分以上に自分とあまねのことをわかっている。
「……おい、あいつの姉ちゃんを殺したヒーローは分からなかったんじゃないのかよ」
「さぁ、どうだかな。……いいか? 今度はお前の番だ。
一つの問題は解決した。
だが浮上してくるのはまたもう一つの問題。
今度は自分の番だとガイは言う。
勝利の余韻に浸ることはできず、目の前の光景を噛み締めるも新たな課題が生まれたことに若干のわだかまりを残し、暮斗の抗争は終結した。
結果は、ヒーロー協会と怪人連盟の痛み分けだった。
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