第50話 セイボリータルトで乾杯
世界のハーブの芳しさ、世界のスパイスの香ばしさ、カフェ・ハーバルスターの朝ごはんは風味豊かに違いない。
「こんな素敵なモーニングに出会えるのだったら、早起きしたくなりますね」
私はリトルプレスを読み終えると、ネコヤヤさんに返しながら言った。
「いつか出合うこともあるの、きっと」
ネコヤヤさんは、返したリトルプレスをもう一度差し出した。
「出合いのお守り」
「え、いいんですか」
「食べたいモーニングを思い浮かべて、白いページに」
「白いページ? 」
さっきは気付かなかったけれど、読み返してみたら、まん中のページが、袋綴じになっていた。
ペーパーナイフで開けてみたら、そこには何も印刷されていなかった。
「書いても、描いても、貼っても、何もしなくて思い浮かべるだけでも、いいの」
ネコヤヤさんは歌うように告げると、フェザリオンとティアリオンが捧げ持った銀のトレイから、シャンパングラスをすっととってひと息に飲み干した。
「さあ、寄り道はそれくらいにしたらどうかね」
スエナガさんがいつのまにもどってきて、みんなに声をかけた。
「乾杯の前にもう飲んだのかね」
「のどがかわいたの」
「まあ、今日の乾杯は、これだから、飲んでもかまわんがね」
スエナガさんは、セイボリータルトののったお皿を手にとって見せた。
それを合図に、みんな思い思いにセイボリータルトのお皿を手にして掲げた。
「では、美味しさをともに」
「美味しさをともに」
最初に選んだ一皿は、刻んだディル入りのクリームチーズを塗ったタルト生地の上に、アマランサスとトビコとイクラのぷちぷちミックスがのっていて、軽くペッパーが散らしてある。
ディルとペッパーが効いていて、魚卵も風味よくおさまっている。
セイボリータルトのフィリングのハーブ、スパイスの匂いをかぎながら、その匂いが世界のどこからやってきたのか考えるのも楽しい。
――沈んだ気持ちを晴らしてくれるのは、いつだって美味しいものだった――
そんなことを思いながら、とりどり並ぶセイボリータルトを、私はゆっくり味わった。
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