Ⅸ なんであたしだけ?
「「ハピネス!シャローム・エクスプロージョン!」」
霞と焔が連携して攻撃してたときのことが頭に浮かぶ。それだけじゃない。凪と澄、珀と楽が攻撃してた時のことも……。みんなはいつの間に新しい技を身につけてるのに、あたしにはまだ何もない。なんで、あたしだけ何もないの?
「明、お待たせ!」
スマホをいじりながら公園のところで待っていると、澄がやってきた。澄と練習したいんだけど、なかなか時間が合わないからどこかで打ち合わせしようって話になってたの。
「いいよ、大丈夫!じゃあさっそく、時間割の擦り合わせでも始めよっか。」
あたしと澄はスマホを開いて、話し合いを始めた。2人の時間割を見比べていく。すると、1コマだけ空きコマがかぶった場所があった。あたしはそこで少しホッとする。その後で、かぶった空きコマで一緒に練習しようという話にまとまった。
「今日は大学あるの?」
「うん!4限からだけど……。」
澄が頷いて、あたしは目を少しキラキラさせる。
「じゃあランチにでも行く?あたし今日全休だから!」
あたしは澄に向かってピースサインを出す。すると、澄が羨ましそうな目であたしを見て「いいなー」と声を上げた。
澄と一緒にランチをする場所を探していると、何やら異様な雰囲気がした。慌てた表情をしながら逃げていく人たちや、「怪物が現れた」とブツブツ言いながら足早に去っていく人たちとすれ違う。あたしと澄は目を合わせて、逃げていく人たちとは逆の方向へ足早に歩き出した。もしかしたら、ディソナンスかもしれない……。
少し息を切らしながら進んでいくと、大きな地響きとともに巨大な影が見えた。よく見ると、フロッシブも一緒だ。あたしと澄は少し辺りを見回してから呪文を唱えた。
「「グラマー 」」
ルーメン!エスパシオ!
「きらめく
「きらめく
「「きらめく音はみんなの力!伝われ、Ensemble!」」
一目散に逃げていた人たちの足取りが変わる。そして、周りが少しホッとして柔らかくなったような気がした。
「現れましたね。行け、ディソナンス!」
フロッシブの指示を受けたディソナンスが、方向転換してあたしたちの方へ向かってくる。あたしたちはディソナンスに向かって飛び出した。あたしは勢いをつけて飛び上がり、ディソナンスに向かって矢を放っていく。澄は下でディソナンスの攻撃を防いだり、注意をひいたりしてくれている。でも、2人だとディソナンスにダメージを与えるのが難しい……。
「「ハピネス 」」
ルーメン!エスパシオ!
「響け!再生のハーモニー!
澄が三角形にタクトを振ったところで、ディソナンスの拳が澄のもとへ降ってきた。澄はタクトでその拳を押さえる。
「ハピネス!リバース・エスパシオ!」
タクトの先が白く輝き始め、その光がディソナンスの腕に絡みついた。ディソナンスが耐えかねて、拳をタクトから離す。
「これじゃあ、あたしの攻撃もすぐ跳ね返されちゃいそう……。」
あたしはタクトを力強く握りしめた。すると、この前見た連携攻撃のことを思い出す。
「澄、この前のデュエットなんちゃらってどうやってやるの?」
「え?」
澄が耳打ちしてくる。あ、そうやってやるんだ。なるほど……。あたしと澄はタクトを構えた。
「「響け!希望と再生の
「「ハピネス!エスポワール・リバース!」」
タクトの先から矢のようなものが現れて、それがディソナンスの方へ向かっていった。ディソナンスはあたしたちの攻撃を手のひらで受け止める。タクトを握る力を強めていくと、ディソナンスが後ろへ退いていくのが見えた。あたしはホッと肩を少し撫で下ろす。すると、ディソナンスはあたしたちの攻撃を巻き込むようにして、力強く手を握った。すると、あたしたちの攻撃が消える。え、そんな……。ディソナンスはチャンスとばかりに、その場で固まっているあたしたち2人を足で蹴り飛ばした。悲鳴をあげながら、すぐ近くにあった建物の壁に2人で激突する。そしてそのまま地面にたたきつけられて、動けなくなってしまった。ディソナンスがあたしたちの方へ近づいてくる。そして、あたしたちを拳で殴ろうとしてきた。あたしは目をきつく閉じる──
「「グラマー 」」
トネール!トーン・ハーバード!
あの声は、珀と楽?そう思った瞬間、ディソナンスが悲鳴を上げた。楽が薙刀でディソナンスを切りつけ、珀が鞭で叩いている。
「「ハピネス 」」
トネール!トーン!
「響け!知性のハーモニー!
「響け!思いのハーモニー!
2人のきれいなハーモニーが辺りに響き渡った。
「ハピネス!ケントニス・トネール!」
「ハピネス!アローム・トーン!」
珀の攻撃でディソナンスに電気が走っていって、楽の攻撃で紫色の音符がディソナンスにたくさん当たっていった。
「大丈夫?2人とも。」
あたしたちの前に着地した珀が話しかけてくる。
「この後はわたくしたちに任せてください。」
珀の隣に着地した楽があたしたちに笑顔を向けてくれた。
「「響け!知性と思いの
「「ハピネス!ケントニス・アローム!」」
珀と楽の攻撃を受けて、ディソナンスは姿を消した。
「なんで、あたしだけ連携攻撃が上手く使えないんだろう?」
数日後、明がこんなことをつぶやいた。確かに、わたしもあれは疑問に思う。なんで凪とはうまくいって、明とはうまくいかなかったのだろう……?
「じゃあ原因を探ってみるか?」
そう言って、焔がカバンの中からルーズリーフとペンを取り出した。そしてみんなが見やすくなるところに置く。
「え、なんで紙とペン?」
「何か法則があるかもしれないだろ?そういうときは、頭で考えるんじゃなくて、紙に書いた方が分かりやすいじゃないかと思ったんだ。」
こういって焔は紙にみんなの名前を書いていった。
「じゃあ、まずは何が考えられる?」
「あれは?水とか火とか……。」
霞の提案を聞いて、焔が名前の横に書いていく。
霞 水
焔 火
凪 風
澄 時空間
珀 雷
楽 音
明 光
これを見て、みんなは悩んでしまった。
「これはなんか違う気がする。」
「水と火なんて、普通は相容れないはずだし……。」
みんなはそれに頷いた。同じ意見を持っているみたい。
「じゃあ次はなんだ?」
みんなが一斉に首を傾げる。少し時間が経って、凪がなにか思いついたみたい。
「じゃあこれは?」
凪が風と書かれた横に“安らぎ”と書き込んだ。それを見た焔が頷いて、同じように書き始める。
霞 水 平和
焔 火 情熱
凪 風 安らぎ
澄 時空間 再生
珀 雷 知性
楽 音 思い
明 光 希望
「うーん……。」
「さっきより近くなった気はするけど……。」
「なんか違いますね……。」
この後もいろいろ考えてみたけれど、結局分からないまま昼休みが終わってしまった。さっきの紙はというと、珀が持っておきたいというので、焔がその紙をとって珀に渡す。それ以外の人は、それぞれで写真を撮って解散した。
家に帰って、僕はベッドに寝ころんで昼休みに考えていた紙を眺めていた。焔が言っていた法則性。確かにあるんだと思う。けどなんだ?僕たちに何の法則性があるっていうんだ?考えても、何も思いつかない。僕は大きなため息をついた。仕方ない。この前の練習中に見つかった『みんなの行進曲』の間違いを直すとするか……。僕はピアノのところへ歩いていって、ふたを開ける。そしてかぶせられた布をとると、目の前にきらきらと輝く鍵盤が顔を出した。僕は適当な鍵盤に指を滑らせる。すると、力を入れ過ぎてしまったのか、鍵盤がおりて音が鳴ってしまった。きれいな2つの音のハーモニーが部屋に響き渡る。うん?今叩いてしまった鍵盤のところを見てみると、右手で
「これってもしかして!」
僕はさっきの紙を手に取り、それぞれのドイツ音名を書いていった。
霞 水 平和 B♭
焔 火 情熱 D
凪 風 安らぎ F
澄 時空間 再生 A
珀 雷 知性 E♭
楽 音 思い G
明 光 希望 C
書いた後にそれぞれのハーモニーをピアノで鳴らしていく。
「そっか、そういうことだったのか!」
~Seguito~
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