TRPG自作キャラ設定&SS集

チタン

ダブルクロス THE 3RD EDITION

御影・綴SS1

 何でもない日常の一端、背の高いビルと低い家が立ち並ぶ単なる街中。

 空は夕日に差し掛かり、わずかな赤みを帯び始めており、静かな中に生活の喧騒が混じっている。

 そんな日常からかけ離れた光景が展開される場があった。

 

 熱く、赤い液体が、一面に広がっている。

 それは私から零れ落ちた物だけでなく周りの全てから漏れ出、混ざりあった鼻を押さえたくなるほどに濃い。


「あ、ああアアア!!」

 バケモノはその隆起した両腕を振り下ろす、まるでトカゲのような鱗に覆われたそれは、私の頭を叩き潰すように落下して、

 間一髪で身をひねって回避する。

 行き場のない力はコンクリートで舗装された地面を容易く砕き、欠片が飛沫となって皮膚を切りつける。


「ッ――。殺すわ、あなたを」


 裂けた場所からは血が絶えず滲み出て重力のままにたれ落ちる……はずだった。

 それは意志を持ったように、ある種の植物のように一つに集まりカタチを作る。

 細く伸び、反りのない真っ直ぐな直刀。

 それは血によって作られるあかき剣、長さ1m40に及ぶ、もはや刀の域を脱落した武器である。


「……愛していたわ、だから……さようなら」


 もう、迷いはない。

 終わらそう、この夏が一時の夢であったように、私とあなたの関係もまた、一時に消える花でしかないのだと。

 ならば、せめて枯れ落ちる前に手折ってしまおう。

 綺麗なままにその終わりとして押し花に変えてしまおう。


 直刀はさらに形状を変容させる。

 ただでさえ大きなそれは、より拡大した。

 柱としか言いようのないそれを何もかも、未練もろとに横凪で薙ぎ祓う。


 轟音に瞬間的な風圧だけでほぼすべてを吹き飛ばす破壊力。

 そのあまりにも暴力的な力はバケモノは両断してもなお収まらず、辺りのほとんどを巻き込んで一回転に及ぶ。

 回避も防御も許されない絶対の一撃は手の届く全てを断ち切り、それを叶えたと同時に粉となって手には何も残らない。


 残るのはただの残滓ばかりで、誰のものとも分からぬ混ざった血が視界を埋めている。

 バケモノは力を失ってその膨張した腕を人のあるべき姿に戻し、支配した暴走はその活動を命と引き換えに停止させた。


 何も残ってはいない。

 その脱力感だけがこの体と心を支配した。

 それでも、それでもバケモノは、半身だけになったバケモノは私に笑いかける。

 嘲笑ではない、微笑みだ。

「ありが――とう」

 何が、死んで、なにがありがたいのだろう。

 今の一言のためにあと数秒は続く命を燃やし尽くして。

 私は……正しいのだろうか。

 私は、間違っているのだろうか。


 生きていた誰もが居なくなったこの場で、ひたすらに涙を流し、声が枯れるまで叫び続けた――。



 また、まただ、また同じ夢を見た。

 いや、夢で片づけれるものではない、これは過去の記憶だ。

 広いこの部屋は組織の支部長室で、引き継ぎで置かれたままの調度品が少しばかり少なめに飾ってある。

 居眠りをしてしまったか……最近はろくに寝てないからだろうな、しかし、目をつぶればいつもいつもあの夢だ。

 忘れもしない、――いや、忘れることなど不可能な多く失ったことへの罪だ。

 私は何人ものバケモノジャームを殺してきた。

 私がバケモノを殺す力も、いつかコントロールを失えば彼らのように衝動によって暴走するバケモノへとなる。

 それに対抗する組織UGNの構成員もまた同じ力を使う以上はいつか最後は決まってジバケモノになるしかない。

 私もいずれそうなることは理解している。

 なぜ、なぜこうも世界は厳しいのだろう。

 私は何人も殺してきた、それはバケモノばかりではなく、バケモノになりかけた人ですら……だ。

 胸に下げた二つのネックレスを掴み、無力に放す……。


「支部長、報告書をお持ちしました」

 部屋に入ってきたのは黒いスーツを身を包んだ秘書の一人、川橋だった。

 短く切りそろえた髪に整った顔は組織内でも人気が高い。

「先日に起きた連続殺人の経過報告と、二日前に解決された事件の物になります。

 前者には増員願いを含まれていますよ」

 紙の束をデスクに置くが厚さは軽く30cmはある。

「どうせ貴様が確認しただろう?

 貴様が判を使い指示すればいい」

 支部長印を川橋に投げようと手に取ると上から押さえつけられる。

「支部長は今日から貴女ですよ、御影支部長」

「…………」

 ああ、そうだった。

 忘れていた、いや一時も忘れていなかったが。

「ジャームとなった先代石動支部長の討伐作戦にて臨時指揮官となった貴女が支部長に選ばれたのも全て中枢部からの指示です。

 どうあっても覆りませんので、諦めてください」

 軽く、手を数度握り、放す。

「……、川橋君、君はバケモノを殺しきれると思うか?」

 川橋は長く沈黙してから、仕方無さそうに口を開く。

「レネゲイドウイルスは一度感染してしまえば決して排除できず、また非活性状態の感染者は人類の八割に及ぶ……それが我々UGNと研究者だした結論です。

 御影支部長のいうバケモノは、八割を犠牲にすれば、叶うかもしれません」

 知っていた。だが、それがただの妄想だと、そう信じていたかった。

「人がそこそこ苦労して、そこそこ幸福に生きていける世界を、全てのバケモノが駆除された世界を私は願っている」

 あまりにも幼稚な考えだ、現実ならさっき告げられたばかりだというのに。

「御影支部長らしい願いですね、だからこそ、支部長というポストに就いたのだとどうか好意的にお受け取りください」

 未だ苦労することになるが……それでいい。

 平和を望というと安っぽいが、けれど私が願う物はそういう物なのだろう。

 これまでに、上司、同僚、部下をそうと知って16人も斬り殺した。

 その血を知るならば、

 たとえこの身が醜い肉塊へとなり果てようと叶えなければならない。

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