第6話 二人の帰り道
帰り道、二人は人通りの少ない道に入った。
日が傾きかけ、影は長く伸びる。
あいも変わらずおしゃべりを続ける蝶子と光の君。
そのときだった。
草むらから人が突然飛び出してきた。
二人はびっくりして声をあげる。
飛び出してきた人はばたりとうつぶせに倒れ、そのまま動かない。
二人に緊張が走る。
格好からして軍人か警察官の男性のようだった。
「だ、大丈夫ですか……?」
蝶子はおそるおそる声をかけた。
すると、その人はゆっくりと顔をあげた。
「あ……!」
蝶子は思わず声をだす。
それは、先日出会った人物――、一条時雨だったからだ。
「あなた、こんなところで何をやっているの?」
蝶子は彼の顔を覗き込んだ。
彼はちらりと少女を一瞥すると、一瞬驚いたような顔をしたあと目をそらした。
「……ちょっとサボるつもりが盛大に寝てしまった」
蝶子はあきれたような顔をした。
「また?何かの病気じゃないの?」
「いや……最近忙しくてな」
時雨はそれ以上答えようとはせずゆっくりと起き上がった。
「君たちは何をしているんだ?そろそろ日が暮れるが」
時雨は二人に問いかけた。
「カフェーに行ってたのよ。今は、その帰り」
蝶子は自慢げにそう答えた。
「女学生がカフェーなんて、ませてるな」
時雨はにやりと意地悪そうに笑った。
蝶子はその言葉にむっとする。
「ちょっと待って。二人は知り合いなの?」
会話する二人を不思議そうに眺めていた光子が、会話をさえぎった。
「一応ね。言ったでしょう、この前失礼な人に会ったって」
光の君はああ、と点と点が線でつながった、という顔をした。
「あなたは警察官なんですか?」
光の君は時雨に質問した。
「ああ……まあ、そうだ」
時雨は短く返事を返した。
「じゃあ、蝶子のこと家まで送ってあげてくれませんか」
「え?」
時雨と蝶子は二人で驚いた顔をした。
「最近物騒だから。蝶子に何かあったら困るし」
蝶子はぶんぶんと首を振った。
「私は隼人に鍛えられてるから大丈夫よ。時雨殿、私はいいから彼女を送ってあげて頂戴」
「私も兄に鍛えられてる。それに私は見た目は男みたいだから大丈夫だよ」
「そ、そうは言っても……」
結局光の君に押し切られる形で時雨に家まで送ってもらうことになった。
「じゃあ、また明日」
「うん、また明日学校で」
そう言い合うとちょうど橋のところでいつものように光の君とわかれた。
いつもと違うのは、隣に眠たそうな青年がいることだ。
いざ二人きりになると何を話していいかわからない。
蝶子は急に緊張した。
「ねえ……あなた警察官なんでしょう」
「そうだが」
「あなた私に言ったわ、近頃若い女性が狙われてるって。それ、本当ってこと?」
時雨はしばらくの沈黙の後静かにうなづいた。
「だから面倒だが、お前の警護も引き受けたってわけだ」
「なんでいちいち失礼なの、あなたって人は」
ぷりぷりと怒る蝶子を見て時雨はまたにやりと笑う。
「じゃあ、吸血鬼の噂も本当なの?血を吸って殺されるっていう」
その言葉を聞いた時雨の顔から笑顔が消えた。
「あまり詳しいことは言えない。捜査上の守秘義務があるからな」
時雨は慎重にそう答えると、黙ってしまった。
(聞いてはいけないことだったのかしら……ということは真実に近いということ?)
蝶子もそれ以上は探ろうとせず、二人は沈黙のまま家に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます