トロール
「なんなのよこいつ!」
神草埜々は今目の前にいるトロールと対峙している。
光の魔術で目眩しで視界を奪ったが、果たしてどれほど効果があるかは埜々にも分からなかったが、生徒であふれている校庭のグラウンドでは無闇に魔術を使えない。
埜々の魔術は広範囲に効果が及ぶものが多く、下手をすれば他の生徒にすら当たりかねない。
「埜々!大丈夫!?」
埜々によって来たのは智香だ。
校庭外にいる人達の避難を先生や魔術科の生徒の人間に頼んで、魔獣のいるグラウンドに降りて来たようだ。
「智香!危ないから下がってて!」
「分かってる埜々。後ろで援護するためにきたんだから!」
埜々の魔術をよく知っている智香からすれば埜々の前に出ると邪魔にしかならないと言うことをよく分かっている。
だからこそ、サポートをするために埜々の元に来たのだ。
「水の迷宮(アクア・ラビリンス)!」
智香は魔術を発動させてキューブ型の水牢の中にトロールを閉じ込める。
無理矢理水牢から出ようとするトロールだが、暴れても水の壁に阻まれ外へ出ることが叶わない。敵の動きが止まったことで埜々は詠唱を唱え始めた。
「天翔ける星々よ!響け!」
埜々は手を上に掲げる。
するとトロールの真上に大きな魔法陣が描かれた。
30メートルほどの大きさまで魔法陣が大きく広がり回転を始める。
「極門、星門、天門、光門。四門を解き放ち、暗雲を切り開く一筋の光となせ!撃ち抜け!」
大きく広がっていた魔法陣は徐々に小さくなっていき、いつのまにか両手ほどの大きさまで縮小されて、回転数が上がっていく。
そして埜々が掲げていた手を下に勢いよく下げる。
「閃光の弓矢(ライトニング・スナイプ)!」
魔法陣から一閃の光が降り注ぎトロールの身体半分にかき消すように直撃する。
トロールが立って居た場所の半分が埜々の光魔術で穴が空くほど威力だ。
トロールを囲んで居た水牢もなくなりただの水となってあたりに散らばり、身体が半分になったトロールは仰向けに重々しい音を上げながら倒れこむ。
「はあ、はあ。終わったの?」
「だね。ありがと、智香」
智香の「水の迷宮アクア・ラビリンス」はかなりの魔力を消費する。
智香は荒げた息を整えながら埜々の元に駆け寄る。
しかし、何かが蠢く音がしたのを埜々は聞き逃さなかった。
音のする方へ埜々は視線を向ける。
「嘘.....!」
トロールの消えたはずの体の半分がものすごい勢いで再生されている。
トロールは立ち上がり、いつの間にか完全に元どおりの身体となっていた。
そしてそれだけではない。
急にどこからともなく上空から同様のトロールが2体降り落ちて来た。
地響きが鳴り響き、トロールたちは大声で叫び出した。
「こんなのって....」
智香の表情が凍る。
攻撃しても再生される身体をもつトロールが3体。
一撃でこの巨体を葬る術がなければすぐに再生されてしまうだろう。
埜々の大技「閃光の弓矢(ライトニング・スナイプ)」を持ってしても身体の半分程しか消し去ることができなかった。
埜々は意を決したように智香の一歩前へ出る。
「智香、時間を稼ぐから逃げて。きっともうすぐすれば魔術省からの援軍が来るからそれまで私がなんとかする」
「でもこんなの......」
「早く行って!!」
苦い顔をして智香は埜々に背を向けて走り出す。
自分がいても埜々の足手まといにしかならないとわかっているからだ。
智香は走っている最中「ごめん」と何度も繰り返しつぶやいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます