11.

***


 サエが初めて自分自身で料理をした日。

 後片付けをする彼女の姿を眺めながら、篁は口元を緩ませた。

「ねえ、サエちゃん」

 問いかけずにはいられなかった。

「そのケーキはサエちゃんの思い出の料理のひとつになるのかな」

 篁は言いながら短冊に視線を向けていた。

 サエは作業の手を止めずに、篁の問いに答える。

「どうかなあ。私、いろんな料理を食べてきたからね! それにしても、その中から八枚に絞られるんだよね? うーん。何が選ばれるんだろ」

 洗い物をしながらの会話は、水の音にかき消されまいと声を張り上げていたせいで、その語気の強さが興奮によるものなのか、緊張によるものなのか、はたまた特段の感情は含んでいないのか判断に難しかった。

 だがそのときのサエの声は、篁には喜びに弾んだ声のように聞こえた。

 思い出の料理が選ばれる時を思い浮かべて、心を躍らせているように見えた。

「その日が来るということがどういうことか、わかってるのかねえ」

 篁の呟きはサエの耳には届かなかった。

 それでいいのだと、篁はひとり笑った。

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