第38話 決着

 互いに見つめ合う。ロボットだから見つめるかどうかは不明だけどね。

 確か、こんな状況を『先に動いた方が殺られる!』って言った様な…。

「あっ!」

 『白い奴』が斬り掛かって来た! 私の勝ち?


 そんなわけもなく、今度は右に回り込んで来る! 当然、私の機体が攻撃できない位置へ。


 操作して『白い奴』を正面に捉え…って、居ないよ…。


 右はフェイントで、本命は左! 機体を回したから…背中側に居るはず。

「なんのぉ!」

 後ろ向きにダッシュ!


 期待していた、「ガイーーーン!」って音は無かった…。

 バックしながら右の視界の隅に入ったのは…。やっぱり『白い奴』だ!


 そんな所にぃ! さっき体当たりはやっちゃたから読まれたな。

 『白い奴』が振り下ろす剣がスローモーションに見える…。


 ど、どうしよう? バルカンはその位置じゃあ当たらないし、剣は間に合わない、ダガー抜いてる間はない…。シールドは論外…。残るは…ミサイルだけど、そこはバルカンと同じで当たらない…。

 全部駄目じゃん!


 もーっ、こうなったらぁぁぁぁぁ!

「燃え上がれ! 私の何かぁぁぁぁぁ!」

 トリガーを全部引いた。


 バルカンは明後日の方向を撃ち、剣は遅ればせながら『白い奴』へと。肩口のミサイルが『ドドドーン!』って射出された。


「な、なんです!?」

 まさか、こんな場面で明後日の方向にバルカン撃ったり、ミサイル撃ったりした事が、あまりにも意表を突いていて声が出ていた。


 驚いた事により、操縦桿を少しだけ後ろに引いていた事に本人は気がついていない。


 その事が幸いしていたとは、つゆ知らず、振り下ろされた剣は、狙いを少しだけ外して致命傷を避けた。


 結果、今の攻撃は私の機体の右肩の装甲を持って行った…。


 直ぐにお互いに距離を取り、またお見合いに状態になった。



「今のは、駄目かと思った…。」

と、小さく吐き出す。


「今のは、勝ったと思いましたのに。」

 こちらも、小さく吐き出した。


 モニターで機体の状態をチェックすると、右肩にダメージが入って黄色い[ALERT]が出てる。腕の動きが低下して、白兵戦のダメージが下がるって事らしい。まあ、腕が無くならなかっただけでも、良しとしとこう。


 『白い奴』のあの人は白兵戦がめっちゃ得意みたいだ。上手く死角に滑りこんで来る。

 白兵戦をやってて思った。大きい盾は、白兵戦だとちょっと使いづらい…。死角になっちゃう。

 でも、それがリアルぽい。


 こうなったら!

 カチ、カチ。その操作で私の機体は、シールドを捨てた。

「確か、こうだったはず。」

 左のグリグリで、自分の剣をマークすると、空いた左手で剣を握り両手で構える。これで、右腕のダメージ低下分は少しは補えるはず。


 『剣は両手で使うと威力が上がる』って、どこかで聞いた気がするし。

 そして、部長さんが言っていた『シャキーン!』ってした。

 そう、それは最強の『勇者の構え』。


 この前、教えてもらったばっかりどけど…。


 また、目の前で起きた事に驚いた。それは、相手の機体がいきなりシールドを捨てた。

 今まで数々の私(わたくし)の攻撃を、防いでいたのをあっさりと捨てた!?

「確か、聞いた事があります。『思い切りの良いパイロットは強い!』って。」

 口元は嬉しそうだった。

「弱い相手に勝ても、つまらないですからね。」



「おー! シールド捨てたよ、あの娘。」

「戦法変えるのですか? 大尉。」

「そうみたいだけど。シールド上手く使ってたけど、あんなにあっさりと捨てるなんて。」

 熱弁する大尉の顔を見た波門は、

「大尉。凄い嬉しそうですね。」

 問いかけたが、モニターに集中する大尉から返事は貰えず。

「ちょっと、妬けますね。」

 その声は全く届いてないと思った。諦めてモニターに視線を戻した。



 後は、兎に角攻める!

「やあぁぁぁぁぁ!」

 トリガーと共にペダルを踏み込み斬り掛かる!


 『白い奴』は右に機体を捻りながら受け流す。そのまま突き返してくる。


 こっちも華麗にはかわせなくて当たった。直撃してないからダメージは小さい。大丈夫!


 打ち込んでは切り返され、打ち込まれては回避の攻防戦が続く…。

 たぶん【4:6】ぐらいで押し負けている。


 嘘です。


 正直なところ【2:8】ぐらい。もしかしたら【1:9】ぐらいかも。完璧に負けている。


 致命的なダメージは受けてないけど。少しずつ黄色い[ALERT]が増えていく。


 何度も剣撃の攻防を繰り返しているうちに気が付いた。

 『白い奴』のあの人は、突きが上手い。超正確なコントロールで突いてくる。何度も、冷やりとさせられたし。


 もう何回やったか忘れちゃったけど、

「当たれぇぇぇぇぇ!」

 上段から振り下ろされる剣。


 『白い奴』は、左に回り込む様に交わしながら突いてくる。


 やっぱり、そう来た!

 操縦桿を操作し、機体を少し左に回転させた。


 振り下ろされる剣の軌道が少し変わる。


 『白い奴』の突きが胴体に浅く当たり装甲を裂いた。その瞬間に軌道が変わった私の剣が『白い奴』の右腕の肘を斬り落とした。


「やった!」

 頭の中で『勝った!』と。だって『白い奴』の得意と思う剣が使えなくなったんだから。


「あれ?」

 思いっきり剣を両手で振り下ろし、がら空きになった胸元へ『白い奴』が左の拳を当てた。


 私は呑気に、『盾が空を向いてる。』って思ってた。

その時「ボン!」と大きな音と共に『白い奴』の盾の回りから煙が勢い良く吐き出され、「メリメリ」っと音と共にモニターに[ALERT]の赤い文字がいっぱい出た。


 そして、モニターの背景が赤くなり[LOST]と表示され、機体が動かなくなった。


「な、何が?」

 慌てて確認したら、さっき『白い奴』が左の拳を当てた辺りに、でっかい【杭】が刺さってた。


「あれは!」

 確か《パイルハンマー》って言うはず。しかも、一回こっきりの強力な奴じゃん。盾の裏に装備してたのか。


 小窓のあの人が、

「今、勝ったと思ったでしょう。勝ったと思った瞬間が、負けた瞬間ですわ。」

 また、右手の甲を左頬に当て、

「お~ほほ。」


 やられちゃった。そして、モニターに[GAME OVER]と。


 負けた悔しさよりも、楽しい時間が終わった残念な気持ち。それが今の正直な気持ち。

 楽しかったなぁ。

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