決着④
小屋の中に入ると、黴の臭いが鼻腔を掠めた。じめじめした空気が肌に張り付いてくる。
床に倒れている小碓を見つけて、宿禰は傍に駆け寄った。
すぐに上半身を抱き起こして、呼吸を確認する。微かだが息をしている。
だが顔は青褪めているし、呼吸も不規則だ。
小碓の額に手を添えて、小さく呪文を唱える。すると、小碓の額から黒い霧が出てきて、それを掬い取ってみれば、小碓の頬が赤みを帯び始め、呼吸も規則正しくなった。
闇の一族に伝わる秘伝の一つだ。体内で瘴気を生み出す事は出来なかったが、体内に入っている瘴気を取り出すこの術だけは得意だった。
胸を撫で下ろすと、小碓の瞼が震えはじめ、ゆっくりと開いた。虚ろな目がだんだんと生気を取り戻して、宿禰を真っ直ぐ見つめてきた。
「すく、ね……?」
「小具那、すまなかった。助けるのが遅くなって。苦しくないか?」
小さく頷いたのを見て、表情が和らぐ。
小碓は破顔した。
「すく、ね……あり、が、とう」
意識を失った小碓の首を支えて、宿禰は小碓を抱き締める。
「礼を言うほどじゃない」
俺は。
俺はただ。
「お前を守りたかった、ただそれだけのことだ」
扉から風が流れる。優しい風だ。
その風は二人を包み込んだ。櫛角別たちが来るまで、ずっと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます