真相②
衝撃的な告白に、一同は言葉を失くす。
娘が父に、親子としての愛情ではなく、恋慕を抱くなど。
そんな。
「え、うそ……」
「あたしも信じられませんが……でも、それだと色々と納得できるというか……」
「たしか、あなたたちの父上は……」
「はい。先の戦で、戦士として命を落としました。狩りが得意で、逞しくて、優しかった自慢の父でした」
目を伏せながら、奈津は過去を撫でるように続けて言った。
「妹はそんな父が大好きで……いつも後を付けて回っていました。母は梓女が生んですぐに死んでしまいましたし、その分親の愛情を父に求めたのでしょう」
「そして、それが度を行き過ぎた、と」
リンの呟きに、ええ、と応える。
「あたしが父に構ってもらってきたとき、梓女は必ずあたしを睨みました。その頃はお父さんっ子だったから拗ねていたんだろうなって、思っていましたけど、今なら分かるんです。あれは……嫉妬する女の目だったと」
それに、と奈津は告白する。
「あたし、正直言ってたまに梓女がたまに怖かった。父が死ぬ前でも、死んだ後でもそれは変わらなかった」
片手で裾をぎゅっと握り締めるその手は、みるみるうちに青くなっていく。
そして、はっと顔を上げて小碓たちを見やった。
「もしかして……お墓荒らしは、梓女の仕業……!?」
「……僕たちは、そう思っています」
「そんな……だったら、なんで……小碓王子に石を投げて……」
「何故、それを奈津さんが知っているのですか?」
「あ……」
しまった、という顔をして視線を泳がす奈津。
それを打破したのは、意外にもリンだった。
「妹を追いかけていたから、知ってしまったのだろう」
「追いかけていた?」
「わらわはこやつを、路地裏で見た。誰かを追いかけているようだった」
「なるほど。それで路地裏にいたのか。訊いても濁したのは、妹を庇うためか」
図星を突かれたからか動揺する奈津に、落ち着いて、と声をかける。
「実は先程、梓女さんが僕の館に訪れて」
「え!?」
彷徨っていた視線が小碓に向けられ、驚愕に満ちた顔をする。
「逃げたので、追いかけていたのです。今は見失っていますが……これからも捜索するので、奈津さんは」
「あたしも行きます!」
「……」
小碓は三人と一匹にそれぞれ視線を送る。八柳はうんうんと頷き、宿禰は溜め息をつき、リンとアトリは表情を変えていない。
「本当は家に帰ってほしいけど、一人で帰らせるのもなぁ」
八柳が頭を掻きながら、言い募った。
「それに、妹がすっげえ心配なのは分かるし……責任は負えないけど、それでも着いていくんだったら、俺はいいぞ?」
「宿禰は?」
「足手まといはごめんだ」
即答だった。
「リンとアトリは?」
「どうでもいい」
「アトリ、姫、意見、同ジ!」
こっちも即答だった。
意見は二通り。リンとアトリの意見は除外だ。
さて、どうしようか、と思案を巡らせていると。
「!」
リンが突然険しい顔になって、山の向こうに視線を投げた。
「どうした?」
八柳が気付いて訊くと、リンは低く唸る。
「瘴気を、感じた」
『!』
視線がリンに集まる。奈津だけ、不思議そうな顔をしている。
「どこから?」
「上のほうだ。急ぐぞ」
「急グ! 急グ!」
「え、え!?」
そう言って、リンは少女とは思えないほどの速さで駆け出す。三人もその後を追いかけた。
奈津ははたふたしていたが、唇を引き締めてその後に付いて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます