1.6 コリシュマーデ

 家にかえったトゥエンは寝床に腰かけて、壁ぎわにたてかけてある剣とその鞘をずっと眺めてばかりいた。コリシュマーデという刺突剣で、トゥエンは剣の点検にやってきた東方の旅人から知った。根元は太く、しかし途中からすぼまるような形で細くなってゆく形状は特徴的だ。トゥエンはその形に魅せられて剣を調べまくった。旅人の話では、その地の鍛冶屋にとっては技術力を示す剣のひとつであるとのことで、三角形の断面の、しかも太さが異なる複雑な構造はトゥエンにとっても大きな壁だった、百本以上失敗して、ようやくきたえられたものだった。



 トゥエンが考えていることは、獣人の話をしてほしいといったクレシアの口もとだった。口もとがぬめぬめ輝いていたとかいうことではなく、彼女のきもちをうかがいしる要素が口と声ぐらいしかなかったからである。



 クレシアはきっと『昔』のの王宮騎士団に何かをされている。トゥエンが騎士団を指導するよりも前だ。だからあの言葉に体をこわばらせた、トゥエンはそのようにふんでいた。



 トゥエンが騎士団の指導官となるまえ――厳密にはトゥエンとシモフが解散させたときよりも前のことだ――は、王宮とは名ばかりの、タチの悪い傭兵団といっても過言ではなかった。何かと、たとえば王宮騎士団の騎士に礼儀を示さない、などといちゃもんをつけては一般民を殺した。犯罪者がひそんでいるとして、集落ひとつを殺戮したこともあった。



 トゥエンはロウソクたてをもって剣にあゆみより、ロウソクたてを剣のかけ台そばにおいた。右手をつかに、左手を鞘にして剣をもちあげた。鞘から抜いた。細い剣身にかすかながらうつる自身の顔を見つめながらかえりみる。この件で誰を斬ったか。たしかめられさえすれば、その中にクレシアの敵がいたなら、クレシアの目のまえでこれを掲げて、この剣で『やっつけた』、といえるのだ。



 酒の場ではやめるべきと思った獣人の話題も、そのときは話したくてたまらなかった。トゥエンのように、『人間』と『獣人』を同じ立場に考える『人』は彼しかいないといえるような状況だった。それぞれがそれぞれより上の存在だと思いこんでいる、とトゥエンは思っている。もしかしたらクレシアは同じ考えをもっているのではと、どこに根拠があるのか分からない、あさはかな期待をしていた。



 剣身の中の自分がニヤニヤしているのに気づいて、トゥエンは剣を戻した。クレシアが彼とは考えを異としていることが分かってしまえば、あの酒場には近寄れなくなるだろう。たとえクレシアを説得しようとしても、逆に屈服する自分をかんたんに想像できた。エサをちらつかせたときのネコのように屈する自分が、すごくいやだった。



 トゥエンはチュニックをぬいだ。で、そのチュニックを右手ににぎった。タイツの素材を使ったピチピチの下着を着用していて、それがひきしまった尻をさらに強調していた。その容姿でたつその姿は、さながら大理石の像だった。



 部屋のすみにある籐のかごにチュニックをなげいれ、つぎは下着をもぬいでなげこんだ。寝台に身をなげ、腹を布にうちつけてから、あおむけになった。

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