第10章-3 ソルジャー躍動
第二統合情報処理研究所への入口のある建物までは、最寄り駅から約6キロメートルと離れている。そのため、EVバスを運行している。しかし、真田と児玉は第二統合情報処理研究所へと歩いていた。
EVバス、タクシーは利用不可と、旅のしおりに記載があるためだ。
駅前に点在している商店街を通り過ぎると人通りは少なくなり、日差し遮るものもなくなる。2人は全身に太陽の光を浴びながら進む。太陽光の熱と体が発する熱で大量の汗を滴らせながら・・・。
真田と児玉は、起伏の激しい地形で樹木が多い場所へと差しかかった。
隠密裏にターゲットを捕捉し攻撃するなら、絶好のポイントである。逆に隠密裏に敵の攻撃を防ぐにも絶好のポイントである。AIの思惑(演算結果)はサイバー作戦隊の予測どおりであった。
つまり、ここが主戦場となったのだ。
『現地司令部より、第2、第3、第7電磁波班に告ぐ。警戒用小型ドローンとおぼしき物体が編隊を組んで10時の方向より接近中。数は12。直ちに迎撃せよ』
第2、第3、第7電磁波班の大型EVが先を争うように駆ける。天井を開けたまま、物騒な砲塔は剥き出しにして疾走する。
「シデンを照射せよ」
第7電磁波班の班長と思しき人物が、射手に命令する。
「指向性電磁波照射します」
可視領域内の電磁波であればレーザーだが、高出力電磁波照射装置を積んだEVから照射されるのは、不可視領域の電磁波である。
電磁波照射装置が警戒用小型ドローンを自動追尾し、指向性電磁波がしばらく照射され続ける。照射角度や距離にもよるが、10秒程で内部の電子機器が破壊され制御を失い警戒用小型ドローンは墜落する。
観測手が大声で報告する。
「班長、撃墜を確認」
「次は・・・クソが・・・5時方向に移動だ」
観測班から送られてくる情報を確認した班長が移動を決断したのだ。
あくまで隠密裏に事を運びたいため、真田たちに見られそうな場所に布陣することは極力避けねばならない。
ただし、真田と児玉の身の安全が最優先なので、彼らが危険なら躊躇することなく飛び出して良いとなっている。
班員のEV運転手が班長に返答する。
「ラジャー」
EVは最大加速で移動を始めた。
第二統合情報処理研究所の近くで、警戒用小型ドローンとの激しい戦闘が継続している。
「指向性電磁波を照射せよ」
「命中です」
「そのまま維持せよ」
「ラジャー」
「班長、撃墜を確認」
「こちら、第4電磁波班。警戒用小型ドローン3機を撃墜。新手の敵にも対応可能だ。どうぞ」
『現地司令部より、第4電磁波班は待機せよ。大型ドローン1機が接近している。後5分で現着。大型ドローンを迎撃せよ』
無線機から離れた場所で雄叫びをあげている。第4電磁波班の班員が盛り上がっているのだ。
「こちら、第4電磁波班班長の渡辺だ。敵は大型ドローン。リミッター解除の許可を要請する」
無線機を通して現地司令部の会話が漏れ聞こえる。
『第4電磁波班が離脱しても、戦線を維持できるか?』
『第4電磁波班から第5電磁波班が7分の距離に、第1電磁波班が5分の距離にいます。第4電磁波班が戦線離脱しても支援可能です』
『現地司令部の志沢だ。許可する。そこは絶対防衛ラインである。必ず撃墜せよ』
「ラジャー」
渡辺班長が無線通話を切ると同時に叫んだ。
「やったぞ。リミッター解除の許可が下りた。全力照射だ」
「「「おおおおおお」」」
「班長、巧いことやりましたね」
「許可が下りると思ってたさ。俺たちは、絶対防衛ライン近くに陣取ったんだからな」
大型ドローンの速度は小型ドローンに比べて早い。しかしリミッターを外した高出力指向性電磁波照射装置の威力は凄まじかった。
2秒ほどで大型ドローンを撃墜したのだ。
しかし代償は大きく、砲身の形が変わってしまっていた。
第4電磁波班は一息ついた。
唯一の武器が使用不能となり、戦力外となったからだ。
班員たちは観測班から送られてくる情報で戦況を把握し、司令部からの通信を聞きながらノンビリとしていた。
『現地司令部より、装甲車部隊に通達。複数のEVの接近を確認。3台は4輪車。5台は1輪車』
『こちら第1装甲車、11時方向の4輪を排除する』
「おーおー・・・。装甲車部隊は物騒だなー」
第4電磁波班は、既に終戦モードで、無駄口を叩き始めた。
「仕方ないでしょう。衝突して止めるぐらいしかできないんですから」
「緑しかない場所でも、ロケットランチャーは撃てねーや」
「そりゃそうだ。演習場じゃないからな」
「手榴弾ぐらいだったら」
「俺たちはソルジャーだが、自衛官じゃないんだ。そもそも兵器を使う資格がないな」
そこに緊急通信が入る。
『現地司令部より、緊急。大型トラクター始動。2分で絶対防衛ラインを突破する』
班長の渡辺が、素早く位置関係を把握した。
「現地司令部へ。第4電磁波班班長の渡辺だ。高出力指向性電磁波照射装置ごとEVをぶつけてやる。安心しろ」
無線機をおき、渡辺は隊員の前で、淡々と告げる。
「お前らは、ここに残って俺の最後の勇姿を目に焼きつけてくれ。東京に帰ったら、皆に伝えて欲しい。ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れたと」
「「「班長」」」
「今こそ、気合の入る台詞で送り出してくれ」
「「「ご武運を!」」」
班員は全員、目に涙を浮かべ渡辺班長に敬礼した。
「気合入った。任せろ」
高出力指向性電磁波照射装置を載せたEVが疾走する。ただ大型トラクターと止めるには、質量も運動エネルギーも不足している。絶対防衛ラインに迫りつつある大型トラクターを止めるにはどうするか?
しかし高出力指向性電磁波照射装置には、普通のEVにはない武器がある。
高出力指向性電磁波照射装置を走らせながら、渡辺は武器の位置を調整する。大型トラクターの車体の横から高出力指向性電磁波照射装置を衝突させ、渡辺は見事に止めてみせたのだ。
大型トラクターの車体とタイヤの隙間に、指向性電磁波を照射する砲塔を突き刺したのだった。
「さすがです。班長」
「班長は自分らの誇りです」
「東京で必ず報告します。ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れたと」
「ああ、ありがとう」
「なんなんだか、あの茶番は?」
市ヶ谷のCICにいるAI監査室室長の佐瀬が、三枚堂に尋ねた。
「ふー・・・お前は、何も分かってない。名言が誕生した瞬間を見たんだぞ。いいか、ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れた。この台詞に感銘を受けないのか?」
大野陸将補は笑顔で相槌を打ち、褒め称える。
「まさに名言ですな。陸自でも、中々あんな台詞は聞けません」
「生きてるでねえか? それに、最初っからリモートコントローラーだった」
第4電磁波班班長の渡辺は、高出力指向性電磁波照射装置の搭載したEVをリモートコントロールで衝突させたのだ。
「皆、昨日の夜に召集をかけて、快く集まってくれたソルジャーだ。敬意を込めて戦いの全てを見届けようではないか」
「いや、そうだけど。そうでは・・・」
「まだ、何か疑問があるのか? なんでも聞いてくれて構わんぞ」
腹を決め、佐瀬はハッキリと物申すことにした
「なして複数人で、しかも復唱して兵器動かしてるのか? それこそ人工知能の出番でしょう。量子計算情報処理省のメンバーが出向し、開発に携わったとは思えません」
「逆に問おう。人工知能が乗っ取られたらどうするんだ? 今、中央統合情報処理研究所ですら危ないんだぞ」
二の句が継げず、思考が減速している。門倉の言う通り、生きてるうちは脳を使うべきなのかもしれない。
「なんだ、門倉の友人の割には脳ミソが固いな。AI監査室室長なんて仕事が良くないのか?」
「門倉は関係ねえ」
三枚堂に返す言葉が見つからず、佐瀬は大きな溜息を吐き、意味のない返答をしたのだった。
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