産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 12 腐臭の谷

石渡正佳

ファイル12

リサイクル法と偽装

 個別リサイクル法が二○○一年前後に相次いで施行され、二十一世紀の廃棄物の扉はリサイクル法によって開かれた。

 家電リサイクル法(一九九八年制定、翌年施行)、容器包装リサイクル法(一九九五年制定、二○○○年完全施行)、資源有効利用促進法(別名パソコンリサイクル法、再生資源利用促進法を二○○○年改正、翌年施行)、食品リサイクル法(二○○○年制定、翌年施行)、建設リサイクル法(二○○○年制定、翌年施行)、自動車リサイクル法(二○○二年制定、翌年施行)といった具合である。十年後、小型家電リサイクル法が二○一三年に施行され現在のリサイクル法体系が完成した。

 二○○一年はニューヨーク同時多発テロが起こった年であり、テロの前後からリーマンショック(二○○八)まで続く資源価格の大相場が始まった。どのリサイクル法も国際資源価格が戦後最安値レベルに低迷していた一九九○年代に、リサイクルは採算が取れないので製造企業ひいては消費者にリサイクルコストを負担してもらうしかないという発想で起草されている。ところが法が施行される前後から期せずして資源価格が高騰したため、法によってリサイクル料金を徴収でき、再生資源も売れる(リサイクル料金とは別計算)というダブルインカム・ノーリスクのビジネスになった。リサイクル法の成功は偶然の追い風による幸運だったといえる。

 ただし個別リサイクル法はどれも温度が同じではない。農林水産省が主管となる食品リサイクル法と国土交通省が主管となる建設リサイクル法は、経済産業省が主管となるその他のリサイクル法と比べると、本気度が劣る。経済産業省と並ぶ経済官庁として、資源循環という時流に乗ったことにするため、やむを得ず(乗り気じゃないけど)最低限度の法律を作ったという感が否めない。なお環境省はいずれのリサイクル法でも共管となる。当時の状況を顧みると、不法投棄統計量の大半を建設系廃棄物が占めており、食品系廃棄物は偽装処分されていたため、不法投棄の統計には載っていなかった。その後、建設系廃棄物の不法投棄は、ゼネコンや住宅メーカーなどのコンプライアンス(遵法)の努力と、建設系廃棄物処理施設の増設によって、かなりの改善が見られたが、統計的に問題なしとされていた食品系廃棄物は、偽装リサイクルが見過ごされてきた。法人経営農業、有機栽培農業、バイオマスエネルギーと食品リサイクルとのコラボがブームになりはしたが失敗例も少なくなかった。万能の飼料も肥料もない(動物ごと、作物ごと、土壌ごと、風土ごとにリサイクル製品に要求される性状と品質は変わる)以上、万能の食品リサイクルもない。このことに多くの食品メーカーは無知だったし、今も無知である。

 そして二○一六年一月、廃棄食品流出事件(廃棄カツ販売事件)が起こった。しかし食品リサイクル法施行以来、偽装リサイクルはずっと続いてきたのである。

 伊刈もそんな偽装リサイクル現場に遭遇した。

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