第61話 魔法の授業②
30分くらいのインターバルを取って、訓練所に一同が揃う。問題児達もちゃんとやってきていた。
ふふ、欲しかろう。アイテムボックス!
「さてー。自分の適性属性がわからない人はいるか?…いないようだな。で、さっきのテキストに全属性の初級魔法の発動の仕方が書いてあったけど、持ってきた?」
皆しぶしぶテキストを出す。
なんでかな。わかりやすく書いたのに。
「では―今から見本を見せるから。真似して発動練習。魔力は加減しろよ。」
そう言って俺は属性ごとの初級魔法を見せる。全属性を見せ終わったあとは皆がぽかんとしていた。
「おい。余りの見事な魔法に見惚れるのはわかるが練習しないとアイテムボックスは…」
「やっぱりラビちゃん先輩、全属性だった!?」
「すげーよ。さすがラビちゃん先輩!!勇者がいるぞー!」
「おい、こら、詰め寄るな!!」
しばらく後半組にもみくちゃにされた。
落ち着いた後、訓練再開。俺は見回っているだけだ。田村さんが薬師…瀬川有希にいろいろ教えてるようだ。
中々うまく発動しない田中哲夫さんと鈴木啓太さんが、脳筋の中学生に教わってる様子はなんか、ゲームを教え合う子供と親に見えなくも…さすがに可哀想か。
女子組は上手くやっているようだ。
意外なのはガッキ―チームと坂上智樹抜きの3人。楽しそうに話しているじゃないか。
訓練しろよ。やらないぞ。
そして、坂上智樹は仕方なく一人で炎魔法の初級魔法を発現させていた。威力はある。だが細かい制御が効いていない。
「もうちょっとイメージを固めて放ってみるといいよ。ラノベによくあるだろう?ゲームのエフェクトみたいにさ。炎と火がどう違うか、考えるといい。」
俺はアドバイスをしたのだが、面白くなさそうな顔していた。まあ、仕方ない。同じ日本人なのに俺は偉そうだもんな。
「…ああ。」
ぼそっと聞こえるか聞こえないかの呟きが聞こえた。地面を睨みつけて、そこに炎の魔法陣が展開する。さっきよりは綺麗な歪みのない魔法陣だった。
俺は少し感心した。
もしかしたら意外と更生するんじゃないか?
そして魔法の授業はどちらかというと、楽しいレクリエーションのような雰囲気になっていた。
皆魔力量が底上げされてる関係ですぐに尽きるということはないから時間いっぱい魔法を使っていた。
ちゃんと参加して俺の言うこと聞いて頑張ったようなので全員にアイテムボックスは配りましたとも!!
「これがその…アイテムボックス、ですか?」
アーリアには特別版をプレゼントした。指輪型と腕輪型。腕輪型には大きめの魔石を付けてあるから指輪の十倍は収納できる。時間経過もオンオフつき。家一軒くらい入ります。後悔はしていない。装飾も凝った物にした。
ああ、でも王女が荷物持って歩きまわることはないから、いらなかったかな…。
「そう。いっぱい入るよ。素材集めの時に凄く重宝すると思う。手ぶらで旅行にいけるよ。それに魔力を流して。アーリアしか取り出せないようにするから。」
アーリアは言われたとおりに魔力を流した。
「これでいいんですね。嬉しい。アキラ様の手作りの腕輪と指輪なんて…」
あ、感極まってる。照れるな。
「気に入ってくれて何よりだよ。ドロップ品の魔法袋なんだけれど、やっぱり国に渡した方がいいかな?世界に一つしかないんだったら俺が持ってても仕方ないしな。」
アーリアはしばらく考えていたようだったが頷いた。
「わかりました。その方が安全といえば安全ですね。早速明日にでもお父様に報告いたします。」
にこにこと指輪と腕輪を装備するアーリアは眼福だった。
「それで、今日一日いかがでしたか?私が見たところ初日で、お互い遠慮があるような感じでした。皆さん仲良くなってくれますでしょうか?」
俺はアーリアの心配そうな顔に笑みを返す。
「大丈夫。午後は意外と仲良くやっていたよ。明日からちょっと密度を高めるから、喧嘩とか起きないと思うし。」
アーリアが一瞬固まったように見えた。
「そう、ですか。皆さん頑張って…くださるといいですね。」
俺は頷いた。
「うん。頑張らせるから大丈夫。」
アーリアは少し口元が引きつったような笑みで頷いた。
そして、段々負荷を重くして体づくり、基礎能力の底上げを行って、3日が過ぎた。
事あるごとに文句を言う坂上智樹の言葉は受け流した。
それでも、やることはやっているから俺はまだ問題はないと判断した。
そして、バーダットから最後の一人、藤宮かのんが戻ってきた。
戻って翌日から訓練に駆りだす。始めは目を白黒にしていたが、それでも何とか付いてきた。
さて、彼女は精霊眼を持っているから使いこなせるようにしないといけない。
午後、彼女の前に俺は立った。
「やっほー。ラビちゃん先輩って呼んでね。精霊眼はね、魔力切れば普通の視界になるよ。だって眩しいでしょ。キラキラしすぎちゃって。」
あ、彼女の顔が鳩に豆鉄砲な感じになっている。
「あ、初めまして?…藤宮かのんです。…ラビちゃん先輩?…あの、その…何で銀髪じゃないんですか?目も金色でしたよ、ね?」
あ。
ばれた?
「え、何のことかなー??」
後ろからブーイングが聞こえた。お前ら訓練に集中しろよ。
「ラビちゃん先輩!ばらしてなかったのかよ!?」
「えー、そりゃあ…ひでーよな?」
「厨二病がひどくなってるって言わなきゃ!!」
よーしわかった!おまえら訓練所の裏に来い!
「あー。こっちちゅうもーく。一言謝ることができた。これ、機密事項だから一般のこの世界の人には言わないでくださーい。」
俺は手を叩いて皆の注意を引く。アイテムボックスから銀色の鬘を出して被り、目に魔力を込めた。多分、金色になってるはず。
「調査に行った、ラビです。俺はアーリア様の護衛と時々諜報部の仕事もしているから時々消えるかもしれないけど、一か月は時間もらったから集中的に鍛えるから、覚悟よろしく。」
前半組の面々があっけにとられた顔をしている。いや、顔の造作とか弄ってないんで気付くかなって思ってたんだけど。まじかー。ラビちゃん先輩って呼ばせてたのに。
「ま、現地の人に紛れようそのいち的な変装なんで気にしないでくれると嬉しいなー。」
鬘をアイテムボックスに入れて魔眼を精霊眼に変える。
「かのんちゃん、本名は宇佐見明良。よろしく。君は初日にいなかったけど、魔力制御の練習方法はタツト君から教わってるよね?それを毎日して欲しい。それと、精霊魔法の使い方、教えるからね。」
かのんちゃんはまだ呆然としていたけど、こくりと頷いた。そして精霊に魔力を流して魔法を顕現させる方法を教えた。”眼”を使うやり方はタツト君から教わっているから助かった。
だが一つ問題があった。皆には適性がない精霊魔法を教えているので、注目の的になったことだ。
「集中しろ。気を逸らすと魔法制御しくじることになるんだからな?そうしたら暴発、事故につながる。気を引き締めてくれ。」
後半組はとたんに真剣になった。引きずられて他のメンツも集中し始める。
「…ラビさん…凄いですね。タツト君と同じくらい、眩しいです。」
ん??何のことかな?
「眩しいって…俺にはタツト君ほど才能はないよ。」
かのんちゃんは一瞬怪訝な顔をしたが、その後にこっと笑って魔法の練習に集中した。
「がんばります。私強くなりたいんです。」
ああ、きっと彼女は目的を持ったのだ。この世界での生きる目的、やりがい。
そう、前半組にはこの世界でどういうふうに生きるのか。その覚悟も、当面の目的さえない。
“多少、力を貸してみるか。出来る範囲で。”
そんな軽い感じでもいい。そういう思いがなければ、この世界にいることは苦痛でしかないかもしれない。
まあ、後半組は俺が洗脳したかもしれないけれど。
それでも生き生きとクエストをこなしてレベルアップしてくれている。感謝しかない。
俺の勇者への思いとアーリアへの思いに協力してもらっている。
そうして2週間が過ぎた。体力の底上げの済んだ者は冒険者ギルドに登録しに行かせた。
王都“彷徨い人”達の冒険者生活が始まった。
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