第54話 藤宮かのん2(※藤宮かのんSIDE)

 訓練所は譲ってもらい、修理が済むまで使わせてもらった。あの人たちはどこで訓練したのだろう?

 相変わらず、訓練は4人を中心に回っていて、たまに来るフリネリアさんは何か言いたげにしているけど、結局は何も言わないで帰ってしまうのだ。

 そんな状態で私がこちらに来て3、4カ月は経ったのだろうか。この世界で新年を迎えた直後に”迷宮”に実地訓練に行くことになったと聞かされた。


 初期に集まった10人とそのあとに集まった10人で別れてそれぞれ別の迷宮に挑戦するのだという。そこは初心者に向いている迷宮でそこに潜り、経験値を稼ぐという。身体レベルが上がると強くなれるのだそうだ。


「来たぜ!ダンジョンだ!」

「ラスボスは何かな?いいドロップ品とか、出てきたりして」


 男の子たちのはしゃぐ声が聞こえる。なんでそんなに嬉しそうなの?戦うんだよ?魔物って言ってたよ?

 私は理解できずに魔物と戦うその訓練が嫌で仕方がなかった。


 新年のイベントが王城で開かれた。それはすごくきらびやかで私がここにいることが場違いに思えた。

 王族の挨拶を聞き、多少宴に顔を出したあと2日後に出発式という物をして、迷宮にそれぞれ旅立った。


 初めての迷宮は怖かった。生き物を殺すということがあんなに罪悪感に苛まれるなんて。

 嬉々として戦いに参加しているのはあの4人組だけで、皆が怯えていた。


 この集団のリーダーは初めて顔を合わせる王国騎士団の副団長だった。彼は私たちの戦闘能力のなさに何度もダメ出しをしていた。

 特に突出気味の4人に注意をしていたと思う。毎回迷宮を出た広場で行われるそれは苦行だった。


 そして数日後、私たちは彼らに出会った。

 迷宮の5階層から戻った日、迷宮前の広場で副団長が今日の反省点を話していた。

 迷宮から出た冒険者たちは迷惑そうに横を抜けていった。私は後ろにいたから、舌打ちも聞こえた。

 そして、4人の私くらいの冒険者の集団が、横をすぎるのが目に入った。一人に凄い量の光の塊がまとわりついていた。

(なに、あの人。光がいっぱい。それに、黒い髪…黒い髪って、私たちしかいないんじゃなかったの?)

「ウォルフォードじゃないか!」

 いきなり、副団長が声をかけた。水色の髪の人が寄っていくのがわかった。

 それで彼らは私たちから注目を浴びてしまった。そのせいか、黒い髪の子へ向かって、坂上君がいきなり声をかけた。


「おい、お前も彷徨い人だろう?なんでそこにいるんだよ?」


 なんでそんなこと、言うんだろうと思った。

 言われた少年は戸惑った顔をしていた。光が彼を護るように集まっていく。彼の仲間らしき人が彼をかばったのがわかった。

 貴族という言葉が聞こえた。だったら、彼はこの世界の住人だ。彼らは、その場を離れようとしていたが坂上君は何故か掴みかかった。何をしたいんだろうこの人は。

「何をしている!!」

 副団長が止めに入った。坂上君は不満そうだったが、宿に引き上げることになった。


「なんで、あいつだけが自由になってんだよ?女の隣で。許さねえ」


 陰鬱な呟きが聞こえた。

 なぜそういう発想になるか、私にはわからず、傍には絶対に寄らないようにしようと思った。


 宿について重い防具を脱いで食事をする。

「今日帰りに見た、ウォルフォードって人?水色の髪で超イケメン!!婚約者ってあのピンクの髪の可愛い子かな?」

 有希がさっきの出来事について言ってきた。

「女の子あの子しかいなかったんだからそうでしょ?でも他の2人もイケメンだったよね?」

 冷静に結衣が言う。

「だよね~いいよね。婚約者同士で迷宮冒険?異世界ならではね。」

 カンナがのんびりと言う。

「それより坂上の野郎よ。あいつ何様?何、初めて会った人たちに喧嘩売ってんの?」

 有希が声を顰めて言う。

「私も思ったわ~あれはない。いくら黒髪黒目が珍しいからって、めったにいないって言ってたけど、いるわけでしょう?それにそうだとしても、事情があるかもしれないし。パーティーのリーダーあの水色の人でしょ?多分。

 貴族だって言ってたし。この世界の貴族だからいろいろとやばいんじゃない?手を出したら。」

 カンナが冷静に言った。私は皆の話を聞きながら光の塊がざわめいているのを感じた。

 誰かの視線を感じた。

「誰?」

 振りかえって呟いたら視線が消えた。

「どうしたの?」

 結衣が聞いてきた。

「誰かの視線を感じたんだけど、気のせいだったみたい。」

「かのん可愛いから気をつけなさいね。あの4人とか、荒っぽい冒険者とか。この世界女性が少ないって言ってたし。」

 真面目な顔で有希が言ってきた。

 ありがとうと言ってから思った。可愛いっていうのはあのピンクの子みたいな綺麗な子の事だよ。私は十人並み。

 この世界は綺麗な人ばっかりだ。西洋風だからそう思えるのかもしれない。


 次の日、第6階層に入った。10階層までは戻らずに進むと言っていた。

 憂鬱だ。日本に帰りたい。

 虫が嫌いな私には地獄のようなところだった。女性陣は悲鳴をあげて逃げ惑った。


 安全地帯で休憩するといわれてそこに向かった。そこには昨日の4人がいた。相変わらず、光に取り囲まれている人だ。

 副団長はその4人からあえて距離を取って休みに入った。気付いたのは私くらいかもしれない。


 第7階層に入った。

 さきほどとは打って変わった情景が広がった。まるで季節が進んだようだった。

 先にあの4人がいた。交戦中だった。


「皆見ろ。あのような戦闘を理想としろ。」


 副団長は彼らの戦闘をじっと見ていた。そして私たちに見ろと言った。不満そうに見つめるもの、興味なさげに見るもの。

 そして私は光の乱舞に驚いていた。

 私たちが苦労した魔物を、何でもないように仕留める。あっという間に捌いていた。気持ち悪くなった人もいたが、手際の良さに驚いた。魔法も、剣を使う技術も数段上だと思った。


 この中の誰もあのレベルに達していない。


 スキルとか、そういうのじゃない。戦いの技術と、経験だとそう思った。

 副団長は彼らのあとを追った。あまりにも見事な戦闘に副団長の解説に力が入って鬱陶しい。

 そのなかで水色の少年が王宮騎士団の団長の息子だということとカンナのあこがれの女騎士の弟だと知った。

 他の3人は同じ魔法学院の生徒だという。一流の魔術師になるための学校だとも聞いた。

 だったら、あの黒い髪の男の子はこの世界の住人なんだ。あんなすごい魔法を使えるんだもの。

 あの人たちが勇者になればいいのに。異世界の私たちに押し付けないでよ。

 私を元の世界に帰して。お願い、この世界の神様。


 何度か戦闘を見たあと彼らがふっと消えた。

「しまったな。逃げられた。なんて見事な気配遮断に足なんだ。全員とは泣ける。」

「さすがですね。」

 などと、騎士たちの会話が聞こえた。そのあとはいつも通りに魔物を倒しながら進むことになった。

 休憩は挟まずに進むと、坂上君が副団長と揉めていた。

 ここはなんだか、空気が重い。光もあまりいない。嫌な予感がして、ここから早く立ち去りたかった。

 騎士たちに待つように言われて坂上君と副団長が二人で集団を抜ける。

 少し離れたところで話している。何やら揉み合って、何かを壊した?

 とたん空気が震えた。魔物が一斉に現れた。騎士たちが私たちにもといた道をたどって逃げるように言う。

 慌てて皆が逃げ出したけれど、さほどの距離も戻れずに魔物に十重二十重に囲まれてしまった。

 騎士たちが応戦しているが、だんだんと3,4人で孤立していく。


 もうだめかと思った時に大きな光が見えた。


 誰?

 その方向を見ると、あの4人がいた。

 破竹のような勢いで魔物を殲滅していく。凄い。

 範囲攻撃魔法を見せびらかしていた、坂上君たちとは違う戦い方。

 私たちをかばっている。防御魔法が展開されたのがわかったからだ。

 この魔力量、凄い量だ。この中の誰にもできない。彼らの開けた道を抜けて何人かは逃げられた。

 私たちは彼らと遠い場所にいたからまだ逃げられない。

 彼らが道を開けてくれて皆が逃げていく。坂上君が慌てて逃げていくのに笑ってしまった。

 そして残ったのは私たち3人になった。

 近づいてくる彼らを私は茫然と見ていた。輝く光に囲まれた黒い髪の男の子。

 なぜ、そんなに戦えるんだろう。

 後方から禍々しい気配がして振り返る。魔狼だった。

 間に合わない!殺される!

 そう思った瞬間、黒い影が飛び込んで魔狼を切った。

 私は腰が抜けてへたり込んでしまった。

 何かの像を手で転がしてしまった気がする。


「大丈夫?」

 男の子が手を差し出した。その手を握って立ち上がろうとした瞬間光が溢れた。


 そして意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る