第47話 迷宮攻略⑥

 光がおさまっていくと部屋を埋めた魔物が見えた。それは多種多様な魔物達だったが、やや爬虫類系の魔物が多いように見えた。それを視認した瞬間、風の盾を展開、“石の礫”を全方位めがけて射出した。


 前列にいた魔物が倒れるとそれを踏み越えるようにして奥にいた魔物が接近する。間髪いれずに何度か“石の礫”を展開した。背後ではアーリアが弓を射た。しかしここまでに矢を失っているのでそれほどは続かなかった。矢を背負って剣に持ち替えた。

 アーリアは補助系の魔法は使えるが戦闘に関して使える魔法を覚えていない。というか使えない。剣はフリネリアに鍛えられていたから、ある程度は安心して任せられる。

 アーリアの様子を確認しながら、俺は魔法を使い続けた。とにもかくにも、魔物の数を減らさなければならない。


 小一時間ほど、経った頃だろうか?俺達の周りに動くものはもういなかった。

「はあ…は…」

 さすがに息が上がった。魔力はまだ半分ほど残っているけれど、この先回復が追いついていくかどうかは、わからない。とにかく危機は脱した。俺はマップを確認するとうんざりとした気分になった。

 通路にはぎっしりと魔物の光点があり、ボス部屋への最短ルートを見てみても上の階層の約2倍ほどはあった。そしてどうやらこの下の階層がラスボスの階層のようだった。その階層にはボス部屋とそれに至る通路しか、ないようだった。


「アーリア、少し休んだら行くよ。」

 剣を手入れしてしまい、無事な矢を拾っているアーリアに俺は声をかけた。

 俺は魔物の残した使えそうな魔石を拾う。アーリアの守護用だ。合間に魔法陣を刻み、身につけてもらう。でなければ、たった二人で迷宮主と戦うなんてほんとに無理ゲーだ。

「はい。」

 アーリアがけなげに笑って頷いてくれた。大きめの魔石だけ拾って、俺は装備を確認した。

 もうほとんど残っていない食糧を口にすると水を飲んだ。

 矢を拾って同じように装備の確認をしたアーリアもそれに倣う。

 少々の休憩で英気を養った俺達は部屋を出た。

 そこはまるで原始の森。その中に獣道のようなものが走っている。

 大きめの葉を茂らせた茂みやまるで地球で言う恐竜時代に見られたとされるシダ類みたいな植物。

 そんな巨大な植物群が生い茂る中をまるで小人になったような気分になりながら進んでいく。

 魔物の鳴き声が四方八方から聞こえる。そして俺達の前に魔物が現れた。

 俺は剣を抜いて斬りかかっていった。


 出てくる魔物はリザードマンが多かった。昆虫系は出なかった。まさに恐竜時代という感じだった。まあ、こっちの世界に恐竜時代というものがあったような痕跡はなかったんだが。

 とにもかくにも俺達は魔物を倒しながら進んだ。


 何度目かの休憩のあと、魔石に魔法陣を刻んだ。守護の魔法陣。それをアーリアに身につけてもらった。

 アーリアは何か言いたげだったが、受け取って身につけてくれた。

 上層の魔物より一ランク上の強さを持った魔物が大量に俺達を阻んだ。

 それでも終わりが来る。


 満身創痍のまま、俺達は階層主の部屋に入った。

 扉が閉まった。

 もう出られない。

 浮かび上がった翼竜のシルエット。

 ボスはワイバーン。眷族はリザードマンだった。


 防御魔法を展開し、アーリアが矢を番える。

 俺はアーリアの矢に魔法を乗せる。

 矢が吸い込まれるようにワイバーンの左目に突き刺さった。

 乗せた魔法がワイバーンを襲う。

 雷属性の火花が辺りに散った。


 麻痺状態になったワイバーンが落下する。俺は剣に魔力を纏って飛び出した。

 俺に向かってきたリザードマンは“火の槍”で蹴散らした。

 ズズンと地響きが起こったその床を蹴る。ワイバーンの首を狙って剣を突き刺した。

 そのまま一気に首を落とす。死体は消え、魔石が残った。ドロップアイテムは盾だった。

 後方の扉が開いた。アーリアに盾を持たせて転移陣に乗る。


 光の洪水がおさまったそこは広い空間だった。

 ボス部屋特有の威圧的な空気。部屋の中心部にある大きな魔法陣から召喚されたように白い竜が現れる。

 喉元一点のみが金色に光る鱗。その部分だけが色違いの真っ白の綺麗な竜。

 細長い虹彩が俺達をとらえると竜の纏う魔力が一気に膨れ上がった。

(ブレスか!?)

 俺は反射的に聖属性の盾を展開し、それを防いだが、ブレスが収束するまでいつ破られるかと気が気ではなかった。魔力がガリガリと削られていった。


「アキラ…」

 背後にかばったアーリアから心配そうな声が届く。

「大丈夫だ。凌ぎきるから…」

 なんとかブレスを防ぐと、忌々しそうにこちらへと歩いてくる白竜は、その身体に大きすぎる魔力を滲ませていた。

 失っていた魔力の回復はこの戦いが終わるまで無理だろう。残った魔力でこのブレス以上の攻撃ができるかはわからない。竜の鱗をこの手に持ったぼろぼろの剣が引き裂くかはわからない。魔力で覆っても、途中で折れるだろう。

 それでも、俺はこの竜を倒さなければならない。この竜を倒せば地上に戻ることができる。背後に見える扉の向こうは地上に戻るための転移陣のはずだからだ。


(アーリアを護るって決めた。アーリアの勇者になるって決めた。なら、ここで男を見せろよ。宇佐見明良!!)


 だん、と床を踏みきって跳ぶ。剣に聖属性の魔力を纏う。この竜は光属性か、聖属性の竜のようだが、神眼すら弾かれるのはどういうわけだ。

(神の力が働いている?)

「“雷撃”」

 俺の3倍はある巨体に飛びかかる間、相手に電撃を落とす。一瞬の硬直を見せたが、すぐ自由を取り戻す。


「魔法耐性も半端ないってか。」

 降下しながら目を狙って剣を突き刺そうとしたが、竜は前肢を振るって俺を退けようとする。が、その腕をとっかかりにして頭に乗った。

 頭を振りながら俺を落とそうとする竜の右目を剣でつき刺そうとするが、足元が揺れて目標がぶれる。そんな時弓矢が飛んできた。それに竜が反応して意識が逸れた。


(今だ!)

 剣を右目に刺した。ずぶり、と剣の半ばまで突き刺した。痛みに竜が咆哮する。顎を上にあげたせいで俺は背中を滑り落ちた。両翼の間を落ちながらその翼に手をかけた。痛みに暴れる竜に振り回されながらその背中に風属性の“風の刃”を叩き込む。


(傷がつかない?どこか弱点はないのか?極大魔法とか、この中で撃てないよな。とりあえず…)

 片っ端から魔法攻撃を属性を変えながら撃ったが、無駄だった。竜の身体を覆う魔法障壁を破れない。その間に魔力が膨れ上がるのを感じた。狙っているのはアーリア?


反射障壁リフレクト!!」

 先ほどは盾で防いだが、攻撃を反射する魔法を防護盾にした。上手くブレスを反射してこちらに攻撃が戻ってきた。俺は竜の背中を盾にしながら体に風の盾を纏った。

 竜は自分のブレスを浴びた。自身の攻撃を避けることはできかった。ゲームで言えばリキャストタイムのような硬直時間があったのだろうか?

 鱗が傷ついていた。痛みに暴れ回る竜から振り落とされた。尾に叩かれないよう転がってアーリアのもとまで戻った。

 竜から怒りの波動が伝わる。


「助かった。アーリア。」

 アーリアを背後に立ってナイフを取り出した。魔法を付与した。爆裂の魔法。着弾したら、爆発する。そのナイフを投擲した。

 いまだブレスの衝撃から立ち直れない竜の首元、傷ついてもそこにある、金色の鱗目がけて。

 怒りに染まる竜の視線を受けながら風の魔法に乗せてそれは的に吸い込まれた。

 一瞬の間をおいて爆発した。

 爆風が襲ってくる。

 盾を展開しながら、追い撃ちの魔法を連射した。“炎の嵐”、“雷撃”、“隕石群メテオ”。

 魔力が底を突くのがわかった。

 煙がおさまると首から上が吹き飛ばされた傷だらけの竜の姿が見えた。

 しばらくすると身体が崩れ落ちるように倒れた。


「倒、した?」

 魔力切れ寸前の気だるい身体を引きずって側に行った。竜はピクリとも動かない。

 扉が開く音が聞こえた。

“我の能力をさずけよう。我を倒せしものよ。《時空間魔法》はそなたとともにある”

 頭に響いた声に一瞬足を止めた。聖属性でも光属性でもなく、時空間属性?

「アキラ…大丈夫ですか?」

 思わず考え込んでしまった俺を心配そうに覗きこむアーリアの声にぎこちなく頷いた。

 竜のいた場所に大きな魔石と背負い袋が落ちていた。

 それを拾って扉をくぐる。

 転移陣があった。


 アーリアの手を握り、一緒にそこに駆け込んだ。

「戻れるぞ。」

「はい!」

 光が俺達を包んだ。

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