第38話 師走

 雪が本格的に降ってきた。

 俺はもう、森に入るのはまずいなと思って、森に入っているはずの彼らを迎えに行くつもりで王都の森に繋がる北西門の前で待っていた。ここは他の街からやってくる旅人には利用されない門だ。王都に入ってくるものは大抵、正面の南門か裏門の北門、海に続く街道を持つ東門、迷宮都市に繋がる西門を使う。その間に街の者が使う門が一つづつある。冒険者たちの通用門もここだ。俺は森に索敵をかけていく。眼も借りてゆっくりと森の中を視ていった。見つけた。前半組だ。

 もうすぐ森を抜けてやってくる。


「うわー、雪ひどくなってきたー!」

 しんちゃんが走ってくる。マント被っているから雪まみれにはなっていないけど。

「異世界にも雪降るんだなー。」

 おい、そこ、ハジメ、言っちゃだめだろう。

「積もるかな?積もるかな?」

 わくわくした様子で言っているのは、えりりん。

「このままいけば積もると思う。」

 玲奈は感情の起伏が平坦だよな。だからおっとりして見えるのだろうか。

「とりあえず、戻るぞ。」

 あ、ちゃんとリーダーしてるな。ガッキ―。

「うわあああ!!ラビちゃん先輩がいるぅうう!!」

 …物凄く失礼な奴だな、ハジメ。

「どうしたんですか?」

 ガッキ―はとりあえず落ち着いているな。

「いや、雪が降ってきたから、何か間違いがあったらと思ってきたんだが、魔物も冬支度に入ったらしい。巣に戻っているな。」

 俺は森の様子を窺いつつそう言った。

「無事でよかった。後半組待って戻るぞ。」

「はい!」

 全員でそろって返事をした。よしよし。

 その10分後に後半組も合流し、ギルドに寄って、城に戻った。


 城に戻って座学の部屋を借りてミーティングをしようと、皆を誘った。

 田村さんもついてきた。

「今日、騎士団団長から申し入れがあったんだが、先の10人が来月上旬からバーダットの”緑の迷宮”で演習訓練を行うことになったので、こちらも迷宮に潜れ、とのお達しだった。と言っても、20人パーティーは無理だということで、こっち10人は、王都の迷宮攻略になった。今さら、先の10人とパーティーで連携取れないって言ったからな。こっちの迷宮はまだ人が少ないし、こっちの方がいいだろう。ま、俺も向こうの迷宮行ったことないけどな~あ、田村さんもこっちね。カディスは一緒に行けるか?」

 カディスは肩を竦めて見せる。

「今のところ任務の変更はないから今まで通りだな。」

「了解。それともう一つ。この世界、大晦日から新年にかけて何やら城でイベントがあるらしい。それに出席しろってことだった。何やらお披露目っぽい感じがして嫌なんだが…。ハッピーニューイヤー的ななんかだと思う。あとで詳しく聞いておく。あ、晴れ着とか着ろって言われてもどうにもなんないな…それも聞いておくよ。」

 ざわざわと今の情報についてみんなが話している。結局、俺達はかなり自主的に動いている。

「しつもーん。雪降ってきているし、これから雪積もったりするんですよねー?森での活動って、どうなるんですか?魔物出てくるんですか?寒いですよ?薬草だのも多分取れなくなると思うし…」

 しんちゃんが珍しく、真面目に聞いてくる。あ、いや、しんちゃんは真面目な方だった。フツメンだ。

「そうだな…初心に戻って武術の稽古と、魔法の訓練をやるか。魔法は新しいのを覚えるってのはどうだ?」

 俺が考えつつ言うと、どっと歓声が聞こえた。

「え?マジマジ?」

「魔法新しいの!??」

「やったーー!!」

「あの馬鹿、へこますぐらいの火魔法覚えようぜえ!」

 大騒ぎになった。なんだ?そんなに魔法使うの好きだったか?俺は首を傾げつつ彼らの興奮が収まるのを待った。

「やる気のあるのはいいことだな。」

 カディスが笑いを噛み殺しながら言った。

「あー、そういえば魔法は俺が教えるんじゃねえか。墓穴っていうのか。」

 まあ、こいつらは補正で魔力がたんまりあるし、バーダットで視てきた魔法覚えさせても問題ないだろ。

 唸っていたら、カディスが大笑いしてた。この野郎。



「本日、団長からお話があったと思いますが…」

 アーリアが遠慮がちに話を切り出した。癒しの時間だ。可愛い。

「先の10人の迷宮での実地訓練、それと、祝日の祭典の出席の事なんですが…アキラ様は私の護衛としてラビ様の御姿で出ていただきたいのです。」

 両手を握って見つめてくる。可愛いなあ…だめだ。俺の鼻の下が伸びている気がする。

「こほん。それは任務であれば俺はもちろんラビの姿でアーリアの側にいる。俺は“彷徨い人”で出席はしないということかな?」

 アーリアは少し硬い表情で頷く。

「はい。私もお披露目の席には出席いたします。不特定多数の人々が一斉に城に入るのでフリネリアだけでは不安だと、父が…」

 ほうっと息を吐きだす。

「そのような危険は今まで城ではないのですけど。“邪王”の事もあり少し心配症になっているようです。」

 なんだ。親心か。

「いい王様じゃないか。娘の心配をちゃんとしてくれてるんだから。」

 ポンポンと頭を軽く撫でるように叩くとアーリアが真っ赤になる。可愛い。

「ところで、その祝日なんだけど、俺達はこっちの習慣に詳しくないから式典のスケジュールなんかを早めに教えて欲しい。」

 俺が真面目に言うとアーリアは頷いた。

「わかりました。詳しい当日の日程は追ってお知らせします。雪が降り積る季節なので、風邪には気をつけてくださいね。」

 アーリアが心配そうにこちらを窺う。

「わかった。体調には気を付けるよ。アーリアも忙しいんだから、気をつけてくれよ?」

「はい!!」

 嬉しそうに頷くアーリアは本当に可愛かった。


 俗に師走というけれど、とにかくそれからはあっという間だった。

 異世界も年の瀬というものは様相を同じにするようで、大掃除やら、祝日(年始の休み)に向けての支度とかも相まって、街では忙しそうに歩きまわる人々が目についた。

 あれから先の10人とは接触がなかった。

 やっと訓練所も直ったのか、元の訓練所が使えるようになった。武術の訓練をどこでやろうかと思案していたから、よかった。


 俺達は迷宮に行くのをしばしやめ、体力づくりと基礎の確認、魔法訓練の重視、1月からの迷宮攻略についての作戦決め等を行った。あと、式典に出席するための正装も作ることになり、採寸やらなんやらにも時間を取られた。この世界はオーダーメイドだった。そんなこんなに意外と時間を取られたので、気が付いたら、もう12月も残すところ2日になっていた。

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