第23話 訓練の日々

 結局“坂上智樹”が炎の魔法で壊した訓練施設は1ヶ月ほど修繕に時間がかかり、俺達後発組の訓練施設を使うことになっていた。

 俺達は魔法訓練の施設を魔術師団の合間に借り受けることにし、その他は王都の森での冒険者ギルドの依頼消化。戦闘訓練も兼ねての魔物討伐を行うことにした。


 実戦レベルの訓練は能力を伸ばす。レベルも上がる。“彷徨い人”の身体能力の向上はこの世界の人間とはケタが違った。

“勇者の卵”という称号は「レベル×2000」という値を能力値に加算する。


 たとえばレベル10でHP1000であれば+20000。

 HP21000ということになる。それが全ステータスに加算される。

 多少の身体能力の差はレベルによって解消されてしまう。

 だから後衛向きの人間も近接でもレベル差によっては戦えてしまう結果になる。

 更に“創造神の加護”はレベルが上がる時の経験値を倍加する。

 この経験値は誰にも見えないが存在する。

 俺が【神眼】を使って称号や加護の意味を調べた結果だ。

 この結果を他の人間には言ってはいない。俺の持つ能力も隠蔽後の能力を晒しただけだ。言っても混乱を招くだろうと思ったからだ。


 特に“坂上智樹”に知られてはいけないだろう。

 なんとなくだが、そう思った。

“炎の賢者”という称号は、“すべてを焼き尽くす炎を知りつくすもの”という意味だ。火魔法の上位魔法、炎の魔法なら全て習得でき、使うことができる。魔力もレベルが上がっていけば、彼が極大魔法まで使うことは可能だ。危険すぎる。

 現に今の彼の魔力でも訓練場を破壊しつくしたということなのだから。


 ただ、“邪王”に対しては弱いかもしれない。水峰のシナリオのクライマックスで勇者が“邪王”に対抗しえた力は聖剣の力と、聖属性、女神の力に最も近い属性だったという記述があった。それを根拠とするならば、全ての魔力を奪い尽くす“邪王”に対抗するのなら聖属性を持つ者の方が“勇者”に近いかもしれない。


 俺の能力は他の勇者と比べて桁違いだ。それくらいの自覚はある。だが、俺が勇者になるのかといえばそうではない気がする。


 俺の職業、“語り部”、物語を伝える者、紡ぐもの、読み取る者とあった。

 物に触れたり、人を視た・・りした時、その状況や過去の記憶、心象までも読み取ることができた。やばい能力なので隠している。


 下手をするとその人物の今まで生きてきた諸々の記憶をすべて覗くことができてしまうからだ。

 所謂、“サイコメトリ”の強化版だ。


 また、固有能力、“奇術師”、“トリックスター”ともある。人を驚かせる者、器用な者、幻想を操る者、ひっかきまわす者という意味だった。

 隠蔽、幻想の魔法、精神干渉系の魔法、器用さ、速さの能力値にプラス効果などが今判明している能力だ。

 ゲームで言う“斥候”や、“忍者”のスキルや能力の習得が容易いということだ。


 俺は”彷徨い人”の能力を“ 視て・・”なんとなく思ったのは、日本での生活で修得したものが能力として付加される傾向がある、ということ。


 たとえばガッキ―。彼は進学校に通い、偏差値が高い。INTの値が高かった。

 ハジメはサッカーをしていて走るのが速かった。頭より運動で元より脳筋。

 しんちゃんは、ダーツをやったことがあり、的を狙うことが得意だった。


 だから俺に“情報処理”という能力があるのだろうか。これは“分析”、“解析”、“並列思考”、“高速演算”という能力が判明している。


 これと“神眼”、全ての魔眼を使えるという全てを見抜く眼、という能力を組み合わせて、俺はマルティナの魔法を解析、使えるようにした、というわけだ。コピーとも少し違う。ただ、無から作るわけではないので改良はできても創造はできない。


“地図マップ”は“探索眼サーチアイ”の能力の一部だ。“索敵”・“気配探知”スキルと合わせると相当な情報を得ることができる。

 スキルが多すぎて使えるようになるまでが長かったし、まだ確認してない能力もあるけど。

 とりあえずは今の能力をあげる方向で俺自身の鍛錬をしている。最近ようやくカディスから5本に1本は勝ちを拾えるようになれたしな。


「ひー!!勘弁して下さい!!」

「死ぬー!!」

「まだまだ!悲鳴あげるなら余裕あるよなー。ハイあと100周。ダッシュで10分で終えろよー」

「ひいいいいいい」

「誰だ―文句言ったの!!とばっちりだー!!」


 …などと俺が走りながら考え事してると、後ろが騒がしい。朝の訓練の基本”走って体力をつける”の最中だった。

 100周追加ね。

 とりあえず一番最初に終えてストレッチから、素振りに入る。ただ俺はこれという得物が見つけられず、片手剣と短剣、ナイフ、を主に使っている。

 俺が素振りを一通り終えると息を切らした後発組が座り込んでいてまたカディスに怒鳴られてた。


 それでも、最初に比べるとずいぶんと力を付けたのは間違いない。


 そういや、先発組に早朝訓練で出会ったことはないな。

 まさか、基本的な体力訓練してないってことないよな…。

 あ、田村さんに聞いてみよう。早朝訓練にいつも来ているし。


「早朝の走り込み?向こうはやってないですね。していたら私はこっちに参加してないですよ。」

 あ。そ、そうなんですね。おかしい、田村さんは市井に下りる一市民になるというのに、頼もしく見えるんですけど。俺、鍛えすぎちゃったかな。


「若い子が多かったし、いろいろと試行錯誤していたようでした。こっちの子たちは恵まれていますよ。私もですけどね。」

 何か含みのある眼差しで見られた。俺に期待はしないでくれ。アーリアの期待だけで、精一杯なんだから。


 結局、後発組は俺を含めて10人になった。

 パーティーは最初の3人、次に来た4人、最後に来た2人で組ませた。

 最後の合流組はやっと薬草採取を始めたばかりだ。

 この組はカディスに任せた。

 最初のガッキ―リーダー3人組は独立して討伐依頼を受けさせている。一応俺が監視しているので危なくなったら、助けに行けるようにしている。

 4人組は俺が今引率している。魔法が得意なものが多いので魔法特化部隊にしようと思う。


 そんな毎日を送り(もちろん諜報部の仕事も並行してこなしている)、あっという間に11月も頭の週が過ぎていた。


 そしてついに迷宮へ入る日がやってきた。


 調査が終わり、迷宮の階層は15層。バーダット魔法学院の側にある“緑の迷宮”と同じくらいの規模だ。

 調査隊はSランクパーティで行ったらしく、最終ボスは倒さず戻ったという。

 魔物分布は1~5までが王都の森に出没する魔物とほぼ同じ、6~10は植物、昆虫系、罠もある。

 11~15はアンデット系ということだった。

 5の数字の階はフロアボスがいる。フロアボスを倒すと転移陣がある場所に向かう扉が現れ、下の階層への道、戻るための転移陣に登録ができる。帰りの転移陣を抜けると迷宮の入口に戻る。その状態で再び迷宮の入口から中に入ると、入ってすぐの何もなかった場所に扉が出現し、以降そこを使えるようになるということだった。

 何それ、ゲームみたい。セーブポイントってことだろ?

 ただ、死んでも生き返るということはないらしく、死ぬ可能性があることは覚悟しなければならなかった。また発見されてない罠や強力な魔物のいる可能性もあるので地上の編成とは変え、安全第一に挑戦することになった。

 チームを二つに分け、一日置きで交替し俺とカディスが付く。田村さんも数合わせに入ってもらい、回復役のいないチームに参加してもらう。5人パーティープラス2だ。

 挑戦しないチームは通常の訓練と冒険者活動だ。引率はフリネリアかグレイナーになる。


 さて、装備は整えた。

 いよいよ迷宮に挑戦だ。

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