第6章 重なり合う道‐3

 元の怒涛にミディがビクリと体を硬直させた。

「あ……悪ぃ」

 もうどうしたらいいの!! ……元は叫びたい声をグッと抑えるのが精一杯で、余計に迫力が増したのがいけなかった。周囲からみたら女性を前に、デカイ男が暴言をはいたようにも見える。遠巻きに向けてくる民の視線が痛い。


「書庫が閉まるな」

 心底どうでもいいと言わんばかりの気だるい声が小さく漏れた。今にも泣き出しそうな元の隣に立って、ハルは肩に掛けていたバックに手を掛けると、次にはミディにグィッと革袋の口を広げて見せた。

「え、何?」

 当然のように突き出された袋の中を全員が反射的に覗き込む。一瞬の沈黙の後、顎髭の男が小さく感嘆の声を上げた。

「すっげぇ」

 そこには大小合わせて十個近い宝玉が袋一杯に詰められていた。光を受けて各々が複雑な輝きを放っていて壮観な光景だった。それぞれの石が持つ深い色彩に、相当の獣であった事は容易に想像が出来て、オプト達は次の言葉が出てこない。今までの狩りでは、これ程 色みが深い宝玉はお目見えした事がなかったからだ。

 中から一つ取り出すと、太陽光に宝玉を翳す。宝玉から反射される陽の光は、ハルの柔らかな白い肌に薄い菖蒲色の光を落とした。

「お前達四人で一ヶ月分といえば、Bクラス前後だ。ちなみにこの中には、そんな小物は居ない」

 元は『これだけ言えば、分かるだろう』……そんなハルの声が聞こえた気がした。聞き様によっては自慢とも取れる言葉だが、その表情には一切の驕りや優越感はない。本人にとっては淡々と事実を述べているだけだ。

 

「ッ」

 ミディが言葉を失う横で、オプトが小さく頷き、頭を勢いよく大きく下げた。

「すみません! 明らかに当方の勘違いです。恐らく何者かが宝玉を盗んだ時に、ミディの体に触れたのでしょう。いえ、もしかしたら落としてしまったのかも知れません。どちらにしても、偶々後ろにいらっしゃったのが、お二人だったにすぎません。不快な思いをさせて、申し訳ございませんでした!」

 オプトの頭の下げっぷりに、元は毒気を抜かれた。清々しい……元はこういう人間が好きだ。

「いや……あ~もういいや。あんたが頭を下げる事じゃないしさ。俺らが犯人じゃないって分かってくれれば」

 手を振りながら答える元の肩にガバッと腕を回し、顎髭の男が陽気に声を掛けてきた。

「いや~男だねっ、気に入った! 俺ナツメ、宜しくな」

 顎ひげを擦り笑うと、勢いよく手を差し出してくる。見た目もチャライが、言葉自体も軽い。元が思わず笑い返すと、

「あんた、百パー戦士だよな。うちのリーダーもそう。やっぱ戦士は筋肉の付き方が他と違うよな!」

 筋肉の付き具合を確かめている。ナツメの言葉に握手を返し「そうか? って、自分だって戦闘系の職業だろ?」そう問い返す。

「まぁね~ぇ」

 ニヤリと笑い合う二人の姿に、オプトにもようやく笑顔が戻った。再度頭を下げようとするオプトを制止して、元が照れくさそうに笑う。

「ちょ、ちょっと! オプトもナツメも信用するの? こいつらが犯人じゃないって決まった訳じゃ……」

 一気に溝が埋まる三人に、ミディが声を荒立たせた。仲間の態度に憤りを感じている様子だ。 

「ミディ! いい加減にしろ。この人達に、俺達の宝玉を狙う必要性なんて無いよ。それにそんな事をする人達じゃない」

 冷静なオプトの言葉にミディは頬を赤らめ体を翻すと、

「オプトの馬鹿!」

 そう言い放ち、人込みを掻き分け姿が見えなくなった。

「ミディ!」

 仲間の女性が直ぐに後を追う。ナツメがすかさず声を掛けた。

「ララ! 俺らカラーに居るから」

 ララは片手を上げると、色素の薄いゴールドの髪をなびかせ駆けていく。仲間の姿を見送りながら、「……全く」オプトは深い溜息を吐いた。誤解が解けたのは嬉しいが、よそのパーティを揉めさせたようで、申し訳なさから元はポリポリと頭を掻く。何とも後味の悪さだが、痴漢の汚名だけは払拭出来て、元は内心安堵の息を付いた。

「巻き込んですみません。お詫びをしたいのですが……。あれ? ここに居たもう一人の方は?」

 いつの間にか、ハルの姿はどこにもない。言わずと知れた単独行動だ。

「あいつ、こんな事には一切興味がねぇ奴なんで」

 助けてくれた事には間違いない筈なのだが、何となくスッキリしない。元は置いていかれた疎外感から、大きく首をもたげた。

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