5
「博斗さん? …どこです?」
ひかりの声は、耳に息がかかると思えるほどずっと近くから聞こえた。
どきっとして博斗は振り向いた。
だが、ひかりはいない。
霧の向こうにいるのかと思い、さらに手探りしてみたが、つかむは霧ばかり。
「ひかりさん、どこにいるんです? さっぱりわからない」
「私はここにいます」
霧の中から細い指が伸びて来た。
次いで、指の後ろから手、手の後ろから腕、腕の後ろから肩、そして体が現れた。
「ひかりさん…いなくなったかと思いましたよ」
「すみません。私も博斗さんを見失っていました」
博斗はため息をついた。
「まあ、こんな真っ白で指の先も見えないようじゃあ、迷子にもなるさ」
「迷子と言えば…」
ひかりは顎に指を当てた。
「…あの子達は?」
博斗は眉をひそめた。
「ひかりさん、遥達に会ってない?」
「ええ。博斗さんは?」
「俺も会ってない…。遥君! 翠君! …由布、燕、桜!」
返答はない。
「おーい、ふざけるのはやめろよ…。帰ったらおしおきだべ~」
博斗はから笑いをしながら言ったが、だんだんと肌寒く感じてきた。
「考えたのですが…」
「なに?」
「この霧が怪人に関係するものだとして、この霧がなにかを歪めていると考えられます」
「歪めている? たとえば空間を?」
「そんなところではないでしょうか」
「…そりゃ参ったな」
「あまり、参ったというような感じに聞こえませんね」
「まあね。だって、なにか策があるってわけでもないし。出来ることっつっても、やっぱり、怪人を見つけ出して叩くってぐらいしか考えつかないし」
ひかりのくすくすと笑う声が聞こえた。
「そうですね。おそらくそれが解答だと思います。怪人を倒せば、おそらく元に戻るでしょう。ただ、問題は、怪人がどこにいるか…」
「俺達の近くにいるかもしれないし、あるいは、どこに行ったかわからないけど、遥達のところにいるかもしれない?」
「そういうことになります」
「わかった。とにかく、こうしていても仕方がない。記憶を頼りに、霧の発生地点のほうまで行ってみるとしよう」
「わかりました。ただ、くれぐれも、お気を付けください。博斗さんは、いま…」
「わかってる。グラムドリングを使えないからな」
ひかりは、意識してかどうかわからないが、博斗の左手を握るとぐっと体を寄せた。
「ちょい、ひかりさん…くっつきすぎじゃあ…」
「なんだか、離れ離れになってしまいそうなんです。だから…」
ひかりがそう言うと、博斗は、なんだかほんとうにひかりと離れてしまいそうな気がして、少し強めにひかりの手を握り返した。
「ひかりさん、もし、もしもだよ。この霧の中で、俺とひかりさんしかいなかったら…みんなもも、誰もかれも消えていなくなってたりしたら…どうする? 俺達、ふたりぼっちになったとしたら?」
「それならいっそ、そのほうが私は…」
「え?」
「…なんでもありません。博斗さん、そんな悲観的なことを考えるのはよくありませんよ。さあ、みなさんを探しましょう」
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