「博斗さん? …どこです?」

ひかりの声は、耳に息がかかると思えるほどずっと近くから聞こえた。


どきっとして博斗は振り向いた。

だが、ひかりはいない。

霧の向こうにいるのかと思い、さらに手探りしてみたが、つかむは霧ばかり。


「ひかりさん、どこにいるんです? さっぱりわからない」

「私はここにいます」


霧の中から細い指が伸びて来た。

次いで、指の後ろから手、手の後ろから腕、腕の後ろから肩、そして体が現れた。


「ひかりさん…いなくなったかと思いましたよ」

「すみません。私も博斗さんを見失っていました」


博斗はため息をついた。

「まあ、こんな真っ白で指の先も見えないようじゃあ、迷子にもなるさ」


「迷子と言えば…」

ひかりは顎に指を当てた。

「…あの子達は?」


博斗は眉をひそめた。

「ひかりさん、遥達に会ってない?」

「ええ。博斗さんは?」


「俺も会ってない…。遥君! 翠君! …由布、燕、桜!」

返答はない。


「おーい、ふざけるのはやめろよ…。帰ったらおしおきだべ~」

博斗はから笑いをしながら言ったが、だんだんと肌寒く感じてきた。


「考えたのですが…」

「なに?」


「この霧が怪人に関係するものだとして、この霧がなにかを歪めていると考えられます」

「歪めている? たとえば空間を?」

「そんなところではないでしょうか」


「…そりゃ参ったな」

「あまり、参ったというような感じに聞こえませんね」


「まあね。だって、なにか策があるってわけでもないし。出来ることっつっても、やっぱり、怪人を見つけ出して叩くってぐらいしか考えつかないし」


ひかりのくすくすと笑う声が聞こえた。

「そうですね。おそらくそれが解答だと思います。怪人を倒せば、おそらく元に戻るでしょう。ただ、問題は、怪人がどこにいるか…」


「俺達の近くにいるかもしれないし、あるいは、どこに行ったかわからないけど、遥達のところにいるかもしれない?」

「そういうことになります」


「わかった。とにかく、こうしていても仕方がない。記憶を頼りに、霧の発生地点のほうまで行ってみるとしよう」


「わかりました。ただ、くれぐれも、お気を付けください。博斗さんは、いま…」

「わかってる。グラムドリングを使えないからな」


ひかりは、意識してかどうかわからないが、博斗の左手を握るとぐっと体を寄せた。

「ちょい、ひかりさん…くっつきすぎじゃあ…」


「なんだか、離れ離れになってしまいそうなんです。だから…」

ひかりがそう言うと、博斗は、なんだかほんとうにひかりと離れてしまいそうな気がして、少し強めにひかりの手を握り返した。


「ひかりさん、もし、もしもだよ。この霧の中で、俺とひかりさんしかいなかったら…みんなもも、誰もかれも消えていなくなってたりしたら…どうする? 俺達、ふたりぼっちになったとしたら?」


「それならいっそ、そのほうが私は…」

「え?」


「…なんでもありません。博斗さん、そんな悲観的なことを考えるのはよくありませんよ。さあ、みなさんを探しましょう」

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