11

博斗は、蹴飛ばすようにして屋上への非常ドアを開けた。

屋上に出ると、空が一面赤紫であることがはっきりとわかった。


「さあ、もう逃げ道はないぞ!」

後ろから声がして、医者達と患者達が、給水タンクを背にした博斗と望にじりじりと迫ってきた。


「くっ!」

博斗は必死に左右を見回した。

左右といってもここは屋上だ。

あるのは金網のフェンスだけ。足元にはコンクリートのタイル。頭上には赤紫のどんよりとした空。

逃げ場は、ない。


「院長先生、どういうことですかっ?」

望が、先頭の初老の男に言った。


「ふふふ。わしは院長ではない」

院長はにやりとした。


博斗は、自分が前に出て、望を下がらせた。

「お前達何者だ! ムーの怪人か?」


「ほほう、よく見破った。その通り、俺様は…」

院長の顔がバリバリと左右に裂け、中から巨大な注射器が現れた。

「治療怪人、チュウシャムー!」


「正体を現したな!」

博斗は尻ポケットからグラムドリングを取り出した。

望の視線が気にならないではないが、それどころではない。


「望、いまから見ることは夢だ幻だ手品だ特撮だ、オーケー?」

「博斗…。いいわよ。信じてるから」


「さんきゅ」

うなずくと、博斗はチュウシャムーに向かい、白い刃を吹き出した。


「なにそれ…?」

望は驚きの声を上げた。


そりゃ誰だってはじめてこんなもん見れば驚くわな。

博斗は苦笑した。


いっぽう、やや離れた空中から様子を見ていたピラコチャは、男が白い炎を刃にもつ武器を使うことを知り、目を疑った。

「ばかな! なんで人間があの武器を持ってやがる?」

ピラコチャは、総帥とホルスに知らせる必要があると感じ、すっと姿を消した。


チュウシャムーを守るように、医者達と患者達が前に出て、じりじりと博斗に近づいてきた。

「だが、同じ人間相手にその剣を使えるか? さあ、どうだ?」


「くそっ!」

博斗は迫る人間達に押され、後退していった。

後ろにはぴったりと望がついている。これ以上は逃げられない。

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