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博斗は電気を消した。
「じゃあ、また具を取ってくれ」
すると。
「だめ! これはさくらのだよっ!」
「先に箸をつけたのはわたしですっ! 離しなさいっ!」
博斗は電気を点けた。
「どうしてそういう器用なことばっかり出来るんだ?」
桜と由布が、一枚の肉の両端をつかんで引っ張り合っている。
「さくらのなの~っ!」
「わたしのですっ! 卑しい下賎の民がっ!」
こ、これが桜と由布なのか? 博斗は頭を抱えた。絶対変だ!
「あっ、お肉が!」
二人の箸が滑って外れ、肉が宙に浮いた。
「はしっ」と横から箸が飛び出し、空中の肉をキャッチしたかと思うと瞬く間に遥の口元に運んだ。
遥は肉をくわえると、もぐもぐとおいしそうに食べてしまった。
「美味美味。こういうのを漁夫の利っていうのよね」
「あなた! どうしてそういう姑息なことをするんですの!」
と翠が憤慨した。
「一対一の勝負が行なわれているときに横から手出しをするなんて、女の風上にもおけない卑劣な行為ですわ! って、あなた、聞いていらっしゃるのっ?」
「またはじまりましたね。野蛮女のお説教が」
由布がくすくすと笑った。
「野蛮とはなんですの、野蛮とは! 情熱的とか、熱血とか、他の言い方がいくらでもあるじゃありませんのっ!」
翠と由布が喧嘩をはじめた。
「今のうちだね。いいものだけ食べちゃおっと」
遥は、自分が原因になったことなどお構い無しに、こっそりと箸を伸ばし、鍋を探ってまともな具材だけつまんで食べ始める。
「やっぱり人間、賢く生きないとね。燕は鍋食べないの?」
「うん。みんなが食べられるようになるまで待たないとよくないからね」
「げげっ!」
博斗は顔面をだらだらと冷や汗が垂れていくのを感じた。
「つ、つ、つ、燕が、食べ物を前にして…ま、ま、ままままままま、『待つ』だとぉぉぉぉぉっ! そんなことは神が許しても俺が許さぁぁぁぁぁんっ!」
博斗は憤然と立ち上がった。
「これはいったいどういうわけなんだ! ええ? 誰か説明するんだ!」
遥が喋り始めた。
「あたしが思うに、たぶん、桜がなにかを闇鍋の中に入れたんだと思うな。そう、たとえば『性格交換エキス』みたいな奴」
「そ、そそそ、それだ!」
博斗は桜に飛びかかると、体を見分した。ごろっと、桜のポケットから瓶が転がり出た。
「『性格交換剤スゲカエール』、うわあああ。なんて安直なネーミングだっ! そのまんまじゃないかっ!」
「あっはははは、面白くていいじゃない」
ひとごとのように遥が笑う。
「よくないっ! しかし、これで事態がのみこめてきたぞ。つまり、遥は桜の性格に、翠は遥に、由布は翠、燕は由布、桜は燕に、それぞれ性格が入れ替わってしまったんだな! もう、なんてこった! こんなときに怪人が現れたらどうするんだ!」
「いいことを聞かせてもらった!」
どこからともなく声がした。
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