10
博斗は、校舎を出た。
深夜の学園は薄ら寒く、また、どことなく寂しい。ところどころに取り付けられている水銀灯の明かりだけが、あたりを照らしている。
博斗は中庭に出た。茂みの影で何かが動いた。夜と同じような深い青色の影が、がさっと音を立てて茂みに隠れたのだ。
博斗は、腰を落として柵に身を寄せ、姿を隠しながら静かに茂みに近づいていった。
近づくと、話し声がよりはっきりと聞こえるようになった。
そっと顔を出すと、何人かの戦闘員を従え、ピラコチャがこの涼しいなかにも関わらず肌をむき出した格好で頭から湯気を立てている。
「馬鹿野郎! 物音を立てるなって言ってんだろうが! 気づかれたらどうする! サナギムーは羽化するまで自分じゃ動けねぇんだ! 誰にもみつかんねえようにサナギをどこかにつける必要があるんだぞ」
博斗の視線は、ピラコチャが脇に抱えている茶色っぽい物体に吸い付けられた。
「あれが、サナギムーか」
博斗は小さくつぶやいた。
それにしてもいいことを聞いた。
サナギムーは、自分では動けない? なんだか間抜けな怪人だな。
しかし、羽化というのは気になる。つまり、羽化すると何か他の怪人に変わってパワーアップするということだろう。
なんとしても、夜明け前にサナギムーを倒す必要がある。
自分では動けない怪人が相手ならば、博斗にだってチャンスはあるだろう。
そう、あのデカブツの手からサナギムーを奪ってしまえばいい。
「俺様はこれからサナギムーを、あの時計塔に取り付けにいく。邪魔が入らないように、お前らは時計塔の下で見張ってろ。いいな!」
「ムー!」
戦闘員達が声をそろえて答えた。
ピラコチャが茂みから姿をあらわした。そして、その巨体から当然予想された足音の一つも立てずに、静かに、そして俊敏に走り始めた。
博斗は、自分が、ムーの幹部を甘く見ていたのかもしれないと思った。こんな連中と一戦交えるなんてことが、生身の博斗にできるのか?
まあ、やってみるしかない。
よし。
博斗は身を起こした。
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