11

イエローは、毒胞子の漂う校内を駆けた。

廊下にも、階段にも人影はない。授業中を襲われたために、みんな教室のなかで倒れているのだろう。


階段を駆け上がったイエローは、教室のドアから出かかったところに倒れている生徒を見つけた。駆け寄って助け起こすと、それが遥であることがわかった。


体を軽く揺すると、遥はかすかに唇を震わせて声を発した。

「だ、誰…」

「わたくしですわ」

「あ…あんた、無事だったのね…。よかった…」


「なぜ自分の心配もせずに人の心配をなさるの? あなたのほうがよっぽど大変そうでございますわ」

「だって…仲間の心配をするのは…当たり…前…でしょ」

遥はそう言うと、にっこりと笑い、再び意識をなくした。


イエローは、遥の手を握った。

「あなたの力を、お借りしますわ」


イエローは屋上に飛び出した。


イエローに気付いた怪人が向き直る。

キノコムーは、毒キノコをまるごと大きくして手足をつけただけの醜い怪人だ。紫とも赤ともつかない、なんとも毒々しい色合いがいやらしい。

「スクールファイブか! しかし邪魔はさせん!」


イエローは手を横に突き出した。その手にたちまち、遥のイメージから拝借してきた、スクールフラッグの旗竿が現れた。

「お前が学園をこんなにしたのですわね? わたくしを、こんなに走らせた罪は重いですわよ」


キノコムーはせせら笑った。

「たった一人でなにが出来る? どうせお前たちは…」

次の瞬間、キノコムーのぶよぶよとした胴体に、深々と旗竿が突き刺さった。


キノコムーは、自分の身になにが起きたか、しばらく理解できなかった。

イエローの行動はそれほど素早く、イエローの手から放たれた旗竿は、キノコムーの体を突き抜け、床に突き刺さっていた。

「皆さんを助けるためには、時間をかけていられませんの」


「お、おのれ…会話の最中に攻撃するとは…ヒーローにあるまじき…卑怯な…」

「わけのわからないことを言わないでほしいものですわ。お前が弱すぎるだけじゃないですの」


キノコムーの体がみるみる崩れ、ゼラチンのような固まりになったかと思うと、粉になり風に吹き飛ばされた。

見る見る霧状の粉は晴れていき、学園はいつもの姿に戻った。


ちょうどそのとき、一限の終わりを告げるチャイムが鳴った。

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