歯車は、去年の三月に狂い始めた。

絶対の自信をもって望んだ会長選挙。

まさか落選するとは夢にも思っていなかった。生涯はじめて受けた屈辱。


会長になったのは、生意気そうな顔をした小娘。がさつで、声が大きくて、単純で、なぜこんな女がと思った。だが、なにか遥には、翠の心を揺さ振るものがあった。


それから、スクールファイブの戦いが始まり…博斗先生との出会いがあり…わたくしは、だんだん…。


翠ははっとした。生徒会は、スクールファイブは、心を落ち着かせてくれる。それが、翠には怖かった。

翠は上に立つものでなければならない。そのへんの人間達と心を和ませるようになっては、自分のこれまで築き上げてきたアイデンティティを、否定してしまうことになる。


わたくしは、特別でなければならない。みんなのなかに埋もれてはいけない。

でも、そんなこと、誰が決めたの?

わたくしは、ほんとうに特別でいたいの?


ドアをノックする音がした。

暁だ。


「翠様が、山口を呼ばずに帰られたときは、なにかお悩みがあるとき。お食事を、廊下においておきますので、気が向いたらお召しください」かすかに、暁が去っていく物音がした。

翠は、シーツをかぶり、涙をこぼした。

暁の優しさが、つらい。

そして、いつのまにか眠っていた。

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