7
対岸を見渡せる倉庫の上に、ブラックとグリーンが立っていた。
「レッドが見つけた! 右から三番目!」
強化された視力で目を凝らしていたグリーンは、レッドが指差した筒のドクロマークを確認し、傍らのブラックに指示した。
ブラックが、小刀を三つ目の筒めがけて鋭く投げつける。
鋭い音を立てて空を切り裂いた冷たい刃が、寸分違わぬ狙いで筒の手前にざくっと突き刺さり、火種を持っていた男の動きを制した。
「しめたっ!」
時が止まったかに見えたその瞬間、レッドは飛び出し、ドクロマーク入りの筒に飛びついた。
レッドは筒を奪うように抱えると、そのまま海に飛び込んだ。
「よしっ! 射的の経験が、こんなところで生きるとはね」
ドクロの筒が海に落ちたことを確認したグリーンは、ブラックに声をかけ、倉庫から飛び降りた。
いっぽうハナビムーはブルーを爆発で退けて、ようやくヘビ花火締めの呪縛から解放されたイエローとの一騎打ちを展開していた。
「えいっ、このっこのっ、このっ!」
ハナビムーは次から次へと火薬玉を投げつけ、イエローは飛んでくる火薬玉を、機械的な正確さでラケットで打ち返す。
打ち返された火薬玉はハナビムーが再びキャッチし、イエローに投げ返す。
この繰り返しで、二人の戦いはどちらも一瞬たりとも気を抜くことの出来ない永遠の戦いとなっていた。
イエローは、じっくりとこの戦いの恐ろしさを感じ始めていた。
どちらか、一瞬でもバランスを崩して火薬玉のカバーが出来なくなったほうが、続くすべての火薬玉のダメージを受けることになる。
一つのミスも許されない極度の集中に、イエローは消耗した。そして、ついに、やや長めの瞬きをした隙に、一つの火薬玉を受け損ねてしまった。
イエローの脇腹のあたりに、火薬玉が飛びこんでくる。
その火薬玉に気を取られているうちにも、次々と玉が飛んでくる。
「もう駄目ですわ~っ!!!!」
だが、火薬玉は一つも爆発しなかった。
イエローと火薬玉を、突然の水流が一気に押し包んだ。
火薬玉は湿り、ぷすんとも言わなくなって地面に転がる。
すぐ傍らの海から、水を滴らせてレッドが飛び出した。
「火を消すには水がいちばんでしょ」
「レッドさん…! この水、ヘドロ臭いですわ」
「そ、そんなことより! いよいよ、新必殺技のお披露目時間よ!」
レッドが、ちょうど身長ほどの長さがある棒を取り出し、正面に突き出した。
棒をくるんでいた布がはらりと垂れた。布には、見間違うはずもない、陽光学園の校章が大きく刺繍されている。
旗竿から、四人が旗部分を取り外した。
ブルーとグリーンがしゃがみ、下側の二隅を、イエローとブラックは立ったままの姿勢で上側の二隅を、それぞれ持ち、怪人の正面を向いて旗を大きく掲げた。
「スクールフラッグ、レディー、ゴー!」
スクールフラッグは、空気の抵抗をものともせず、大きく開いたまま怪人めがけて一直線に進む。
ハナビムーは、何もせずに突っ立っているほど間抜けではなかった。
「とおぅっ!」
と、いっぱしのセリフを決めて宙に飛び上がった。
「スクールフラッグだかなんだか知らないが、こんなもんか!」
手を前に向けて突き出していた四人が、きれいにタイミングを合わせ、手を顔の上にかざした。
すると、その手の動きに操られるように、正面に向かって飛んでいたスクールフラッグが、急激に向きを変え、宙に浮いているハナビムーに追随した。
「な、なーんだとぉぅ!」
スクールフラッグは猛然と真下からハナビムーに迫り、その体に触れたかと思った瞬間、巻き付き、見る間に収縮してハナビムーの全身を包み込んだ。
「うぉぉぉぉっう? おおおっ? むぅぅぅぅ?」
スクールフラッグに包まれたハナビムーは、なんとか脱出すべくもがいたが、見る間に天高く舞い上がり、ついに、小さな粒のようになった。
レッドが、地面に突き立てていた旗竿をとりあげ、肩口にかざす。
「スクールフラッグ、フィニッシュ!」
レッドは、右腕を突き出し、頭上の怪人めがけて、旗竿を放った。
旗竿は、スクールフラッグに包まれた怪人へと突き進み、そのまま鋭く怪人を貫いた。
ハナビムーの断末魔の悲鳴とともに、大爆発が起こった。
ハナビムーが抱えていたであろう火薬の数々が、次々に連鎖して爆発し、夜空に無数の花が咲いたのだ。
乱れ咲きとなるはずだった最後の花火が、雀の涙ほどに終わったことに拍子抜けしていた観客達は、突然のこの百花乱舞に、どっと拍手した。
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