戦況をみてとった博斗は、尊大に戦いを見下ろすシータを睨んだ。


このままでは、彼女達はやられる。


ミラームーには遠距離攻撃は効かない。かといって接近しようとすればガラス音波にやられてしまう。


打つ手は一つだけある。ミラームーに気付かれずに接近できればいい。


自分は注目されていない。

いましか、ない。


博斗は、雨のなか、わき目もふらずに、全力で駆け出した。

ミラームーは、博斗の行動にまで注意を払っていないはず。博斗ならば、気付かれずに接近することが出来るかもしれない。


博斗は走り、ついに陽光学園の校門をくぐった。

保健室の前で立ち止まり、足踏みした。なんてこった、「不在」!

博斗はくるりと踵を返し、理事長室に向かった。


理事長はいつものように椅子に深く腰かけ、その横にはひかりが立っていた。

博斗が入ると二人は博斗に視線を合わせた。


「瀬谷君。これが、必要か?」

理事長は机の引き出しを開け、小さな棒のような道具を取り出した。


博斗は目を見開いた。

「…なぜ?」

「忘れたかね? 我々は、陽光市の全域で何が起きているか、常に把握することが出来る。もちろん、いまの戦況もだ」


「キャップ…繰り返すようですが、これは、故障しています。おそらく、キャップの意識に従った反応は、ほとんどしてくれないでしょう」

「わかってる」


「手に握って、刀身の意識をイメージすれば、何らかの反応があるはずです。…が、覚悟してください。怪人どころか、自分達自身をも傷つけうるということを」


ひかりは手を差し出した。博斗はその平に載せられた棒を、そっと受け取った。

「…だが、他に方法はないんだ。やってみるしかない」


博斗は握り締めた棒をまじまじと見つめた。

長さは十センチほどか。飾りっけも何もなく、黒ずんだ色をしている。材質は、なんだろう。金属でもなく、木でもない。表面には無数の小さな傷がついている。


ほんとうに、こんなものが武器になるのだろうかと、かすかな疑念が生じる。

だが、タイタンのときもそうだった。ムーの武器は、見た目ではとてもその実力を推し量ることができない。


「お気をつけて」

ひかりは、博斗の手に自分の手を重ねた。

博斗は厳しくうなずくと、理事長室を飛び出した。


「…やはり彼には、一万年前の前世の記憶が残っているのかもしれないな」

「博斗さんは、勝てると思いますか?」

「わからん。あの武器を使ったことがあるのは、一万年前の彼の先祖だけだからな。…おまけに壊れとる。まったく計算はたてられんよ」

「でも、博斗さんは、きっと…」

「もちろんだ。そうでなければ、な」

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