11
それから十分足らずのうちに、すっかりボロボロになった市民プールを、博斗達はこっそりと後にした。
「あとは、警察とかそのへんに任せとこう。…死人も出てないことだし」
「あ~あ、でもこれじゃ、今年のプールはもう終わりですね」
遥は地面の石を、かつんと蹴飛ばした。
「まあ、いいじゃないか。とりあえず、泳ぐには泳げたわけだし」
博斗は、やや遅れてついてくる玉次郎達に振り返った。
あずさが、つんと澄ました顔をして歩き、その後ろにひょろひょろと玉次郎がくっついている。
「ちょっと、玉次郎! 喉が渇いたですわ!」
あずさは、ガードレールにちょこんと腰かけた。
「う、うん。な、なんか、飲み物買ってくるよ」
玉次郎はおたおたと体を探って財布を取り出した。
博斗は、するすると玉次郎に近づくと、その首を抱えこんでささやいた。
「なんだお前、女の尻に敷かれて、情けないぞ」
「しりにしかれる?」
「んー…つまり、女にこき使われるってことだ」
「う~ん…ううん、僕はちがうよ」
「なーにが違う?」
「僕は、あずさ様の役に立てれば、それでいいんだもん」
玉次郎は小銭を握り締めるとたったっと走っていった。
博斗は肩をすくめた。
「本人が、そう気付いてないのが、いちばんたちが悪い」
「それは、違うのかもしれませんよ」
由布が言った。
「なにが?」
「玉次郎君…少なくとも、彼女に、相手をされるようになったじゃありませんか」
「…そう言えば、そうか」
「たぶん、あずさちゃんも、ほんとうは玉次郎君になにか、お礼が言いたいんですよ。…でも、お礼の仕方がわからない。それで…」
「なーに、素直じゃないんだから! ほんと、お嬢様って、扱いにくくて、イ・ヤ・よ・ね」
「どうして、わたくしを見て喋るのですかしら?」
玉次郎がジュースの缶を手に駆け戻ってきた。
「は、はい! あずさ様!」
「玉次郎!」
「は、はい~っ?」
「自分のぶんはどうなすって?」
「ぼ、僕はいいです! いいです! お金、ないですから!」
玉次郎は首をぷるんぷるんと振った。
あずさは、上目遣いに玉次郎を見ると、ぷしっと缶を開け、一口、二口と飲み、まだ中身の入っている缶を玉次郎に突き出した。
「わ、わたくし、これ以上飲むと、太ってしまいますから…あとは、玉次郎がお飲みになってよろしいですわっ!」
あずさは、玉次郎に缶を押しつけると、すたすたと歩きはじめた。
「え、あの、ね、ねえ、あ、あずさ様ぁ?」
玉次郎はどうしていいかわからずに、缶を手に持ったままあずさの後を追った。
「なんだ、けっこうお似合いなんじゃないのか、あの二人は?」
二人の後ろ姿を見て、博斗は思った。
「いいよね、おんなじお嬢様でもさ、子どもって、素直で」
桜はちらちらと翠を見た。
「またまた。どうしてわたくしを見ますの?」
博斗は慌てて間に割って入った。
「ま、まあ、なんにしても、いいじゃないか。とりあえず、事件は解決したんだから。な?」
「そうですよ。…それに、結果的に、わたし達が、あの子達の仲を取り持つことが出来たんですから、すごく、いいことをしたんだと思います」
「そうですわ! たまちゃん、息継ぎして泳げるようになりましたわよ!」
「…戦うだけが、スクールファイブの力じゃないってことかな」
「おっ、遥君、うまくしめたじゃないか!」
ヒグラシが鳴く道を、一行はのんびりと歩いていくのであった。
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