9
雲間に白い輝きが見えた。
輝きは次第に大きくなり、その姿をあらわにしはじめた。
四角形の金属のように見える。大きさは、距離が正確につかめないのでよくわからないが、かなりのものだ。
博斗の耳に、さっきの甲高い耳鳴りが再び聞こえ始めた。
「この信号で、あれをコントロールしているのだ」
シータが呟いた。
金属の塊は空中で静止した。
よく見ると微妙に凹凸を持ち、ところどころにランプのような発光が見える。
また別の輝きが現われ、ゆっくりと高度を下げてきた。
今度は、縦長の楕円形に見える。
表面はすべすべだが、へこみが二つ、そして細い盛り上がりが一つ。その裏面はすべすべで、何の凹凸もない。
「なんだ…まるで、人間の顔みたいだ」
「その通りだ」
シータが重く口を開いた。
「お前達の言い方をすれば、あれは戦闘用のロボットだ。破壊のためだけに作られた、脅威の兵器だ。タイタンと言う」
「タイタン…ギリシャ神話の巨人だ…実在したのか!」
金属の部品は次々に空に現れた。
細長い筒が二本。腕だろうか。
そして、太い筒が二本。これは足だろう。
さらに、プリンをひっくりかえしたような奇妙な形の塊。
「腰だ。これですべての部品が揃った。…悪魔が生まれる瞬間を見ろ」
博斗達は、息を呑んで見守った。
金属部品は空中でゆっくりと動き、まるで見えない手が組み立てでもしたかのように、確実に組み合わされていった。
瞬く間に、いびつな人間の姿が灰色の空に現れた。
全身が白とも黄色ともつかない輝く金属で覆われ、手足が異様にひょろ長い。胴体は不釣り合いに丸っこい。
その手には短い棒が握られている。棒にはにょろにょろと蛇のような管が絡み付き、不気味な存在感を誇示している。
この距離でかなりの大きさに見える。もし地上に降りたら、数十メートルに達するのではないか?
「土偶だ…」
博斗は枯れた声を出した。
「とてつもなく巨大な土偶だ」
「土偶?」
理事長も、金属の兵器の威圧感に圧倒され、うめくように言った。
「土偶は、宇宙服を着た人間の姿だと思っていたが…」
「その通りだ」
シータが吐き捨てるように言った。
「奴は、星を攻撃するためのロボットだ。見知らぬ星に、我々ムーの姿を焼き付けるために、そのために我々が空を飛ぶときの姿をしているのだ」
博斗は言葉を失い、ただ目を見張りタイタンを見ていた。
ムーは、なんという文明だったのだろう! 地上どころか、宇宙をも支配できたのだ。やはりムーは宇宙を飛ぶことが出来たのだ。
自分は、なんという敵と戦っているのだろう。こんな文明を蘇らせてはならない!
タイタンは空中でゆっくりと向きを変えた。
その平板な顔が、海に向けられる。
シータは地面に膝をついた。
「お前達も伏せろ。そしてできるだけ体を低くしろ。ホルスが、試し打ちをする時刻だ」
「試し打ち?」
博斗は聞き返したが、ひかりの鋭い声に我に返った。
「キャップ! 早く!」
はっと見ると、タイタンは手を前方に突き出していた。
その先に握られた棒が白熱し、その周囲の空気が歪んでいる。
博斗はがばと地面に伏せた。そして、首だけあげて前を見た。
空気が引き裂かれた。
タイタンの持つ棒から白い光が放たれ、海に突き刺さった。
光が触れたところからまたたくまに海水が蒸発し、海底はごそりとえぐりとられ、深い傷痕をさらけ出した。
光はそのまま突き進み、水平線の先まで海を分断し、一瞬で消えた。
光が去ったあと、博斗達の頭上から激しい衝撃波がやってきて、博斗は地面にきつく押し付けられた。
割れた海にも衝撃波が走り、左右に高波が起こった。
波は猛り狂う馬のようにどっと左右に押し寄せ、砕け散った。
「モーゼの杖だ…」
理事長がうめいた。
「モーゼは、あの兵器の小さな物を持っていたのだ…」
シータの言う通り、これは悪魔だ。
悪魔が、地上にやってきたのだ。
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