12

「博斗さん。由布のことは…」

ひかりが博斗に耳打ちした。


「ああ。誰にも言うつもりはない。由布に必要なのは、同情とか憐れみとかじゃないんだ。他の誰とも変わらないように、ただ普通に由布と接して、護ってくれる仲間が必要なだけなんだから」


「そして、ごく普通の家族ですね」

「俺にも少しならその手伝いが出来るかもしれない。でもやっぱりいちばん大切なのは、由布の母親なんだろうな」


「まだ、時間がかかりそうですが…。それまでは、あの子達が、代わりになってくれるでしょう」


「それにしても、ほんとに今日一日で、色々な勉強をした。ただ長生きしてる人間が偉いんじゃない。人生の価値は、その人がこれまで背負ってきた苦労でわかるんだ。俺だって、まだまだみんなから学ぶことがたくさんある未熟な人間だ。みんな同じさ。お互い傷付け合って護りあって、少しずつ進んでいくしかない」


「人間というのは、せつない生き物ですね」

「うん。せつない。でも、それでも明日を信じて頑張ってる人間ってのが、やっぱり俺は好きだな」


由布が、博斗のほうを見た。

「博斗先生…ご迷惑を、おかけしました」


「俺のほうこそ、由布に教えてもらったことは多かった。本当にありがとう、由布」


由布は、小さくうなずいたが、目を伏せた。

「わたしは、お父さんを…」

「いや。あれはもう、由布の父親じゃなかった。そうだな、あれは怪人でもなかった。君が昨日に忘れ去っていた君自身の幻影だったんだよ。由布がさらに責められる必要はない」


「はい…」

「なんだ、まだそんな辛気臭い顔してるのか! そんなんじゃ、由布のために必死になってた彼女達に申し訳がたたないぜ?」


博斗が指差すと、四人が、由布の後ろに並んでいた。

「ごめんなさい。…わたしのせいで、迷惑をかけて」


「なーに、言ってんのよ!」

遥が、由布の肩をぽんと叩いた。

「おかえり!」


由布は、その言葉にはっとして、涙を浮かべながら、にっこりと笑った。

「ただいま!」

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