ワールドシェルター

向風歩夢

第1話 黒髪のチビ

 おーい!黒ちび!悔しかったらここまで来てみろよ!」


 小太りな少年とその取り巻きの2、3人の少年たちが高い塀の上から地上にいる黒髪の少年に向かって挑発している……


 「ぐうぅぅっ!」


 地上にいる少年は塀の上にいる小太りを睨み付けていた……今にも涙がこぼれ落ちそうな表情だったが、少年はぐっと歯を食い縛り涙を堪えていた。

 どうやら少年はカバンを取られているようだ。小太りは手に持ったカバンを少年に見えるようにブンブンと振り回していた。


「くそっ! 返せよ! ボラス!」


 少年は小太りの「ボラス」に叫んだ。


「だったらここまでジャンプすればいいだろうがよ! おい、お前手本見せてやれよ!」


 ボラスは取り巻きの少年の一人に指示を出す。取り巻きはすぐに10メートルはある塀の上から飛び降りた。普通の人間ならばただでは済まない高さだ。だが取り巻きは何事もなかったかのように着地する……


「それじゃあ、手本見せてやるよ!」


 取り巻きはそう言いながら今度は上に向かってジャンプした。あっという間に塀の上に戻っていった。


「ほら、手本見せてやったぜ! ここまで飛んで見ろよ! 弱虫キョウちゃん!」

 

 キョウと呼ばれた少年は相も変わらず悔しそうな顔をしていた……


「馬鹿にしやがって! 待ってろ!」

 

 キョウはそう言うと思い切りジャンプした、が……そのジャンプは1メートルと満たないものだった……


「あっはは! 情けねえジャンプだな! 幼年部の奴らの方がまだましだぜ!?」

 

 ボラスは声を高らかにして取り巻きたちとともにキョウを嘲て笑った。


「お前たち何やってるんだ!」


 20代半ばくらいと思われる青年が塀の下に駆けつけて声をあらげた。


「やべー! アキラ先生だ! 逃げろ!」


 ボラスたちはキョウのカバンを塀の上に放置して逃げていった……

アキラはボラスたちに怒号を浴びせたが、それ以上追うことはせず、塀の上に飛び上がると、ボラスたちが置いていったカバンを回収し、キョウに手渡した。


「後でボラスたちにはきつく言って聞かせるからな…… めげるなよ」


 そういうと、アキラはボラスたちを追うように去っていった……

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