崖 2016 三連一人芝居用台本

めるえむ2018

第1話


→舞台中央に「なみ」

でーんと大の字で倒れ臥している

どこかから落ちた感満載だが、どこかパワーがある

チノパン

長袖Tシャツ

やがて、おずおず動き出す


うわあっちゃー…

全身バラっバラみたいな…

ここどこ

私誰

あ。なみか

水田なみ

りなとまりえと眉山(まゆやま)きて、それから?

それから…


→考えるがわからない


痛っ

足っ

ああっ

腫れてる

わっ

丸太みたい

こっちの倍ある、痛いいいいいいーっ


→暗転


→溶明

暗転前と同じ位置

嘆いて暗転した割にはけろりとした様子で目の前にいろいろ並べている

ガム三粒。

のど飴二個。

いつから入ってたかわからないキスチョコが六粒。

これで全部か…

いつまでここにいなきゃいけないかわかんないんだから、チョコは大事にしないと


にしてものど乾いた…


→カバンをがさがさやるが、何も出てこない

→取り出す

→少し硬質な感じのポーチ(化粧ポーチ)だ


化粧ポーチ!


→言いながら投げ捨てる

少し上手に転がる化粧ポーチ


見る人もないのにお化粧品

ちゃんちゃらおかしい


→言いながらまだまだカバンをまさぐり続ける


ダメだ

マジでのど乾いた

待て私、水持ってたぞ…?

うん

電車乗った時は持ってた

駅出たとこで落ち合って、あ、りなが、のど乾いたけどジュース買えないって私は小銭


→ジャラジャラっとこぼれ落ちる小銭


持ってたけど、貸すの面倒で水のほうあげちゃった

こんなことになるってわかってたら、小銭貸してボトルは持ってたのに…

小銭は飲めない


→突っ伏す

そのまましばらく動かない

静寂

物音

ポツ。

ポツ。

ポツポツポツポツポツポツ…

誰が聞いても雨だとわかる音


雨だ!←なくても可

私ついてる!


→顔を上げ口を開けるが足りない

動こうとすると足が痛い

それでもにじって水滴を追うが、ふと気づく

ポーチ!

そこまで這って行き、拾う

中身をざざっと捨て水受けにするが、


うわあ…ファンデ(ーション)混ざっ…洗っ…雨やむ!


→一生懸命ポーチで受けてる間に、雨音は静まっていく


ファンデ水…


→迷うが、飲む


まずっ


→顔をしかめるが吐かない

暗転


→ピンスポット


→膝を抱えているなみ


やっと思い出した

どうして崖下にいるんだといえば、私がずずっと落ちたから

りなとまりえと眉山きて、まりえがアクセントにつけてたスカーフ、光沢絹の高そうなやつがふわっと舞って、あっ、


追って手を延ばしただけそしたら足下が崩れて…透明エレベーターで運ばれるみたいにぐわあ落ちてった

最後のあたりでバーン、バウンドして、


そして今に至る


ここは岩場の張り出しで道にもどこにもつながってない

携帯の画面は粉々だ

奥の回路みたいのまで見えてる

救助は呼べない

のろしあげれるような火種もない

頼みの綱は上の二人だけど…


二人は私を探してくれるのだろか

そもそも私たち、友だちってくくりでいいのか?

在京キー局の、女子アナ内定してるりな

大企業受付嬢、内定してるまりえ

対する私は十社分の不採用通知受け取ってて、あと二社分がペンディング

学生課にはもう紹介する先がないと言わんばかりの態度されてる…


でもしょうがないじゃん納得行かないんだから

七社目なんて内々定くれたのに蹴っちゃった

だって脱税で社屋建て替えたんだぜ?

建てちゃえばこっちのものか?

ふざけんな!


全く先行きの見えない私が気の毒みたいになったんだろう、二人はきのう、いきなり私を誘った


眉山神社行かない?

あたしたち願掛けかなったから、お礼参りに行くの

なみも一緒に行こ?

二社のどっちかから、オッケーくるかもしんないじゃん…


藁にもすがる気持ちだったんだと思う

私オーケーしちゃった

朝八時眉見(まゆみ)駅ね

遠いなーと思いながらオーケーして、軽装でいいって言うからTシャツチノパンにしたら、二人はドレスアップしてた。

りなはカシュクールふうのワンピース。

まりえはふつうにブラウススカートなんだけど、どこのブランドだろ、上品で優雅で、なんか私とは世界違う感じ。


世界

違う

感じ………………


→膝抱えの状態から、そのまま横へ倒れる

ごろんと

心細い

溶暗


→溶明

さっき倒れたままの位置どりのなみ

手にはまりえのスカーフ

とても弱っている


あれから雨は三度降り、ポーチの水は苦くなくなった

ヘリの音もせず、おーいの声もかからない

私の友達はどうやら薄情だったらしいけど、それも運命

人徳つくっとかなかった私が悪い

スカーフは…

助けたんだけどなあ…


→と手にしたスカーフを自分の顔にかける

震える肩

泣いている

声を出さずに泣いている

→オフボイス


チョコとガムはもうない

あるのはのど飴だけ

濡れた服は冷たく体を冷やす

熱っぽい

足はもう感覚がない

それでも動かないと

限界くる前に

動かないと


動きたく

ない…





そこへドゴーン!

あるものが降ってきたのだ。

それは看板。


足元ちゅうい

よい子はここであそばない




→かなりの間


→動かないなみがゆっくり、本当にゆっくりこうべを上げる


看板…

だとお?

足元ちゅういだとお?


こんな看板どこにあった!

私は見てないぞ!


→激しい怒りのまま、暗転!


→溶明

脚を庇ってはいるが、俯いてもうずくまってもいないなみ。

瞳はぎらぎらと輝いてさえいる


登ることに決めた

やることができたから

そう

私は怒っている

不可抗力と思ったことに、いま意味と、理由を見いだしたからだ

そう

看板

こんなもんどこにあったんだ

あったなら私は崖に進まなかったし、こんなとこで友情疑ったり、自分の就職の可否やきもきしなくてすんだ

そう思ったら急に怒りがこみ上げてきた

管轄は県か市か土木か

一言言わなきゃ気が済まない!


→立ち上がろうとするなみ

衰えて、よろよろと、けれど瞳は依然ぎらぎらと死んでいない。

スカーフをポケットにしまい、瞳を決して崖に最初の手をかける。


なみオフボイス


何のために登る

たった一つの怒りを言うためだ

りなにもまりえにも罪はない

落ちたのは自分のせい

そして看板を見にくいところにおいてた管理者のせい

私は一言もの申す

そのために私は行く

待ってろー

どっかの誰か!

待っててね

試験結果

願わくは


合格通知でありますように!


→ちょっとだけ笑むなみが、足の痛みに耐えつつ次の一手をホールドするところで


end

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