第19話 焦燥
屋敷に戻ってからは特に何をするでもなく、部屋でごろごろしていた。
お昼ごろになって、葛さんが昼食の準備が出来たことを伝えに来てくれた。
大広間には私と先生以外の全員がいた。いや、よく見ると理久くんがまだ来ていなかった。
「あの、理久くんは?」私が聞くと箒ちゃんは不思議そうな顔で辺りを見渡した。
「あれ、葛さんお呼びしていないの?」
「いえ、先ほど声かけはしたのですが、返事がなかったものですから」
私の頭の中に嫌な感覚が蠢いた。
それは私の思考を蝕んでいき、居ても立っても居られなくさせた。
そして、咄嗟に私は立ち上がり、走り出した。大広間を出て二階に上がり部屋を手当たり次第に開けていった。どこが理久くんの部屋なのか分からなかったからだ。
呼吸は乱れていて、相当見苦しい姿を晒していただろう。しかし止まれなかった。どうにもならない衝動だけが、私を動かしていた。
三つ目のドアを開けようとしたとき、ドアが開かなかった。私は「理久くん!」と叫んだ。でも反応は無かった。
史郎さんが慌てて走ってきた。
「どうしたんですか?」
私は史郎さんにどう説明すればいいのか分からなかった。先生なら、私の境遇を知っているからなぜ慌てているのか聞かずとも分かったはずだ。
でも史郎さんのような人には、私のこの異常とも言える行動を理解などできないだろう。
「少し離れていてください」
背後から突然葛さんが現れて、私たちがドアから離れると葛さんは豪快な動作でドアを蹴り破った。
中では理久くんが、ばらばらになって、死んでいた。
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