第2話
女のアパートのあるこの町は都心から少し外れており、再開発が徐々に進んでいる地域だ。
駅前や目抜き通りから順に整理され、きれいになってはきているが、何本か奥の通りにはまだ先程のような安アパートも沢山ある。
それでも数年のうちには、まるで患部が癒えていくように、町の奥まで生まれ変わっていくのだろう。
とりあえず都心に出ようと目抜き通りを目指していた男は、最近建て直された様子の小規模なビルの前で立ち止まった。
一階にはどこかの会社が入っているらしく、ガラスのドアの奥の事務所は闇に沈み、写りの悪い鏡になっていた。
男はドアの前に立ち、ガラス越しに自分の背後を伺い始める。
街灯と街灯の丁度中間にあたる少し薄暗いその場所には、特段変わったものはなかった。
それでも男が熱心に目を凝らしていたその背後の空間が、次の瞬間、ゆらゆらと揺らめいた。
いつのまにか男の背後には、男と同じ様な背丈の、小山のような、動物のようなものが立ち尽くしていた。
ボサボサと黒い毛を生やしたそれは後ろを向いており、背中合わせのはずなのに何故か強烈な視線を感じる。
「…やっぱりきやがったな、オマエ。」
男の唇が歪み、三日月型に釣り上がる。
「長い付き合いだ、出てくる気配みたいなモンを感じるんだぜ?え?『ぞわぞわ』よぉっ!」
男はガラス越しに苛立ちを込めて吐き捨てた。
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